悪役令嬢の執事に転生して、悪役令嬢を破滅から守る‥‥それだけ聞くと割とどこにでもありそうな設定なんですが、貴族特有の腹の探り合いを丁寧に描きつつも、恋愛ものとしてしっかりと書ききった作品というのは、そう多くはないかもしれません。
どうもさめきちです。
悪役令嬢の執事様、漫画から入って小説まで買って、さらには小説家になろうのサイトまで全部チェックして、結局完結まで読み切ってしまいました。面白かったです。
てなわけで、今回は悪役令嬢の執事様という悪役令嬢モノ漫画を、その原作である小説にも触れつつ紹介していきます。
悪役令嬢の執事様ってどんな話?
悪役令嬢の執事様 破滅フラグは俺が潰させていただきます 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスONLINE)
サブタイトルは、破滅フラグは俺が潰させていただきます、です。そのタイトル通り、主人公は悪役令嬢の執事となって、悪役令嬢らしく破滅するのを防ぐために獅子奮闘するという話です。
舞台は乙女ゲーム「光と闇のエスプレッシーヴォ」の世界。悪役令嬢であるソフィア・ローゼンベルクは、婚約者をヒロインに取られて闇落ちし、犯罪に手を染めてまでヒロインを陥れようとし、最後には断罪されてしまうと役柄です。
そして主人公シリルは、そのソフィアの専属執事です。ソフィアが破滅するというのは、すなわち専属執事であるシリルが破滅するのも同義。
加えて、もともとシリルの前世において、悪役令嬢のソフィアはお気に入りのキャラクターでした。幼少期から孤独を抱えていたり、メイドから嫌がらせを受けていたりと同情を誘う設定があったり、優しい一面もあるとのこと。
だから、シリルはソフィアの破滅を阻止するためだけではなく、ソフィアに本当に幸せになってもらうべく、破滅フラグを片っ端からへし折りながら日々戦っていくのです。
嫌がらせのメイドの排除
幼少期のソフィアのそばには、常にソフィアに嫌がらせをするメイドがいました。そのメイドは古くからローゼンベルク家に勤めていて周囲の信頼も厚く、ソフィアがメイドにいじめられたと訴えれば訴えるほど、ソフィアは使用人から嫌われていき孤立していきました。というのがゲームの設定なのだとか。
シリルはそんなメイドの些細な(と言っても結構な額の横領とのことですが)悪事を暴き、それをもとに当主執事とメイドを罰する手配を整え、その上でソフィアに対するいじめの数々を罪として明らかにし、メイドを屋敷から叩き出しました。
「シリル、ありがとう!ソフィアのこと信じてくれてありがとう!」
当時6歳のソフィアには、そんなシリルは最高のヒーローに見えたでしょうね。
それにしても鮮やかな手口です。当時シリルも6歳。なんとたった6歳の子どもが、調査や根回しを行ない、ソフィアを守ったのです。まあこの辺り、前世の知恵と知識というアドバンテージも大きく寄与したのでしょうが。
それにしたって優秀な執事様です。
一流の教育
その後もずっと、シリルはソフィアのそばにいて、ローゼンベルクの令嬢にふさわしく育つようソフィアを促していきました。まあいわゆる教育係です。
立ち振る舞いや声楽、バイオリンやダンスなどに加えて、交渉術や護身術、魔術の知識など‥‥。
そして6年が経ち、2人とも12歳になりました。
「あれがうわさのローゼンベルク公爵家のお嬢様か‥‥12歳とは思えない美貌、大人に引けを取らぬ立ち振る舞い。才色兼備とのうわさは本当のようだ」
悪役令嬢の執事様
社交会に舞い降りた聖女とまで言われるようになったのです。
それにしてもよくぞまあ、同い年でここまで教育係としてやってきたモノだと、シリルに感心してしまいます。
シリルの教育方法
もちろん、前世の知恵と知識というアドバンテージがあったのは事実です。けれども、まだコミカライズされていない原作小説のもっと後の方で、このソフィアの教育に関する記述がありました。
曰く、ソフィアが勉強を始める3日前にシリルが勉強を始め、はじめに何を教えればいいのかを理解する。それをソフィアに教えた上で、ソフィアの勉強のペースが追いつかないうちに、シリルがその先を学んでいく。
(俺はいつだってそうやってお嬢様の教育係を続けてきた)
6歳からそんなことをやってきたのかと思うとゾッとしますね。それって要は、前世の知識などだけでは補えない部分をしっかりと自ら勉強して、努力してきたということじゃないですか。
そう考えると、ただただ転生チートではないことがわかるかと思います。
出会いと物語のはじまり
ゲームでは、ソフィアが12歳のとき、とあるパーティーにて第二王子に出会い恋に落ちたという設定だそうです。そしてゲームのヒロインであるアリシアと第二王子もまた、そのパーティーにて恋に落ちるのです。
ゆえに、シリルはそのパーティーをとても重要視していました。しっかりとソフィアを第二王子とくっつけて、なおかつアリシアと第二王子の出会いを潰そうというのです。
果たして、シリルは見事第二王子とソフィアをいい形で出会わせて、かつアリシアと第二王子の出会いを潰すことに成功します。けれどもそれが逆に、別な引き金を引いてしまうこととなりました。
幼少期からシリルに好意を抱いていたソフィアはもはや第二王子に興味を持つことはなく、アリシアは第二王子との出会わない代わりにシリルに恋してしまいました。
シリルが、ゲームの1番の攻略対象である第二王子のポジションになってしまったのです。しかもアリシアと仲良くするシリルを見たソフィアが闇落ちしそうになるというおまけ付きで。
かくして、なんとかソフィアを第二王子とくっつけ、かつソフィアの闇落ちを防ぐ、新たなシリルの戦いが始まったのです。
悪役令嬢の執事様の見どころと感想
悪役令嬢の執事様を読んでいて「いいなあ」と思うところをつらつらとまとめています。ちょっとネタバレが含まれてます。
ハーレム的な展開だけど主人公がいやらしくない
先に紹介した通り、シリルはモテます。幼少期から一緒にいたソフィアはもちろんのこと、アリシアもまたシリルと仲良くするべく積極的に迫ってきます。メインはこの2人ですが、それ以外にも多くのお嬢様方を惹きつけます。
これは若干ハーレムものに通じるものがあります。優秀な男性主人公と、それを取り巻く女性たちという構図。けれどもこの悪役令嬢の執事様では、ハーレムものにありがちないやらしさを感じることがあまりありません。
‥‥そもそも、私はあまりハーレムものが好きではありません。よくぞまあいろんな女の子にいい顔をしてふらふらできるものだと憤りを感じるくらいです。
というか数多のヒロインたちが無条件に主人公に惚れまくって、そんな状況に嫉妬もせずみんな仲良くなんて、気持ち悪くて仕方ないんですよね。
ともかく、悪役令嬢の執事様のシリルは、そういったモヤモヤを感じさせません。というのもひとえに、シリルがずっとソフィア一筋だからかなと思います。
全てはソフィアお嬢様のために、と全力を尽くすシリルは他の女の子にデレデレするということがほとんどありません。
もちろん専属執事として矜持もあるのでしょうが。特に原作小説を読み進めていくと、シリルの想いが、単に主人の幸せを願うという範疇に収まらない、特別な感情を抱いていることがわかってきます。
‥‥もっとも、シリル自身はそういった感情を表に出すことはまったくと言っていいほどないですし、文章として明記されている部分もありませんけど。ただそれでも行間から滲み出てくるんですよね。シリルの、ソフィアに対する想いみたいなのが。
このへんは、大部分シリルの語りで展開される小説の方が、漫画よりも強く感じられると思います。
ともかくそんなわけで、物語序盤ハーレムものかと警戒したものの、そうではないので気持ちよく読めました、という話です。
腹の探り合いが面白い
この物語、ジャンルとしては恋愛ものと言って間違いないのでしょが、貴族同士の腹の探り合いもまた見どころの1つと言っていいでしょう。
物語は主に、シリルとソフィア、そしてアリシアや第二王子が通う学園が舞台となります。そこは貴族のご子息ご息女ほか、執事や平民もまた同時に通う学園です(このへんファンタジーですよね)。
そしてそこでは勢力争いが活発に行われているのです。特に貴族と平民の身分の差をはっきりと示したい選民派と、もっと積極的に平民と関わるべきと考える庶民派は、互いの主張を決して受け入れることはありません。
そしてそれぞれの派閥は、新しく入学してきた生徒たちが果たしてどちらの派閥に肩入れするのかを慎重に見極めようとしています。
中でも、有力な貴族の娘であるソフィアは特に注目されていると言って過言ではありません。そのような状況下、シリルはソフィアに近づいてくる様々な人物たちと相対しながらも、高度な腹の探り合いを行なっていくのです。
漫画ではまだそこまで達してはいないのですけどね。
小説を読むと、シリルの視点から、腹の探り合いの様子が事細かに描写されています。単なる転生モノ、学園恋愛モノ、チートモノには収まらない魅力が詰まっています。
かと言って小難しいかというとそうでもなく、そもそも物語のほとんどがシリルの視点で語られるうえ、シリルの目的も動機も明確(すべてはソフィアお嬢様のため!)なので、非常にわかりやすいのです。
政略モノはちょっと苦手という人でもすんなりと受け入れられるかと思います。
悪役令嬢の執事様 破滅フラグは俺が潰させていただきます (ドラゴンノベルス)
ソフィアの思惑
常にソフィアの幸せを願って行動するシリルが主人公の悪役令嬢の執事様。けれどもそんな守られる対象であるはずのソフィアには、1つ大変大きな夢があります。夢というよりは野望とでもいいましょうか。
この悪役令嬢の執事様、原作の小説を読んでるとわかるのですが、ソフィア視点で進行することがほとんどありません。ソフィアの想いというか思惑というか、そう言ったものが徹底的に排除されているのです。
それもそのはず、物語全体を通して、実はソフィアはある1つの大きな計画を実行していたからです。物語の都合上、あえてソフィア視点を書かなかったんですね。
ヒントはそこらかしこにあります。原作小説を読んだ後で漫画を見てみると、「ああここは伏線だな!」という箇所がいくつもあります。
そしてそれはある意味、シリルがやっていることよりもよほどすごいことでした。
そもそもシリルは、転生者ということで非常に高いアドバンテージがありました。けれどもソフィアは転生ボーナスも、前世の記憶もない、この世界のごく普通の令嬢です。そんなソフィアが、シリルの考えも及ばない大それた計画を密かに実行しているのです。
その行動力というか、強い意志のような物に、とても強く惹かれるのです。
まとめ
とにかくこの物語に惹かれるのは、主人公であるシリルも、また悪役令嬢であるソフィアも、非常に強い信念を持っているということです。そしてそれぞれの目的を果たすため、2人は並々ならぬ努力をしています。
努力だとか信念だとか、なんだか胡散臭い言葉ではありますが、きっと読んでみればそんな気持ちは吹っ飛んでいくんじゃないかなと思います。もっとも、それを強く感じるのは漫画だけでなく、小説も全部読んだらですけど。
気になる方はぜひ読んでみてください。
自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。1 (レジーナCOMICS)
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