29歳独身中堅冒険者の日常という漫画がありまして、この度15巻発売となったのですけれど、これがなかなか面白くて大好きなんですよね。普通冒険者の話というと20歳前後のキャラが主人公になりがちなところをあえての29歳。正直相当なベテランで実力もあり、けれども若い頃の飢えにも似たようなガツガツさはいつの間にか消えていて、今はとある小さな村で村付きの冒険者をしているという、そんな男の物語です。
この主人公のシノノメ・ハジメがなかなかいい男でですね、「人に優しくするなんて冒険者としてあるまじき」みたいなことを言うくせに、親に捨てられた子どもを拾って冒険者のパートナーとして育てたり、他の冒険者がやらないような地味で儲けの少ない仕事に対しても文句も言わず丁寧に素早くこなしたり。
なので村に来たばかりの頃はよそ者として距離を置かれていたようですけれど(まあ冒険者という職業の人間自体田舎の村人からはあまりいい顔されないっぽい感じですけどね)、今ではだいぶ信頼も得て、すっかり村の一員として過ごしています。
めちゃくちゃ強い上に性格もよく、恨むこともしなければ恩に着せるようなこともせず、大抵のことは仕方ねえなあで笑って済ましてしまうようなところもとっても魅力的な人で、あまり表立ってというのはないにせよ、そこそこモテるんですよねえ。
昔馴染みである娼館の人気ナンバー1嬢兼オーナーや定宿にしている宿屋の娘の子、伝説級の迷宮破壊者、拾って育てている子ども(女の子)やその友だちからも若干そういうふうに意識されてるようなところがありますし‥‥。まあ子どもたちは単に頼りになるお兄ちゃんとか年上異性への憧れとかそんな感じなのもあるかとも思いますけれど。とにかくそんなかっこいい頼りになる29歳独身冒険者ハジメのお話、その15巻の感想なんですよ。
29歳独身中堅冒険者の日常14巻までのお話
今までで一番シリアスな展開がずっと続いていました。本来自然発生するはずの迷宮を人為的に作り出し周囲をひたすら危険に巻き込んでいく老人・ダンジョンメイカーの存在。その調査に来た冒険者ギルドのトップであるブラドー。けれど実はそのブラドーこそが人為的に迷宮を作り出すダンジョンメイカーであったことが判明します。
問題はブラドー本人がそれを自覚していないことです。いや、自覚していないというか、多重人格みたいになってしまっているんですかね。ダンジョンメイカーの調査に来たギルドのトップという人格が主ですけれど、同時に迷宮を作って冒険者に挑戦されることに喜びを感じる迷宮の主のような人格もあって、同時に、自ら迷宮を作り出してそこから発生する副産物、いわゆる迷宮のお宝をひたすら漁る冒険者の側面もあって……。
ちなみにブラド―がダンジョンメイカーとしても登場するときは、ブラド―とともにギルドのトップであるルドワルド・ローカサス=オリオンバーグの姿になっています。老衰でもう少しで死んでしまうと言われている、超高齢なギルド長の、もうちょっと若き姿らしいです。
で、そうするとこの事件、かなりいろいろと問題がありまして。迷宮を作っては周囲を危険に巻き込んでいくなんて存在はあまりにも危険なわけですけれど、その原因がギルドのトップで、しかも本人に自覚がないっていう。
ただこの問題に関しては、ブラド―とともにギルドのトップであり、ブラド―のかつての冒険者仲間であり友人でもあるルドワルドが答えを持っていました。
もともとずっと過去に、ルドワルドとその冒険者仲間たちは、ブラド―から自分を殺してほしいと頼まれていたみたいなんですよね。結局その願いはずっと果たされないままだったのですけれど、ルドワルドが死ぬ間際になって、その願いをかなえるべく、1つの魔法を完成させたのです。その魔法とは、ブラドーの冒険者仲間であった若い頃の自分たちを現出させ、戦ってブラドーを倒すというものです。
ブラドーは魔法で生み出されたそのかつての仲間たちにひたすら、死ぬまで攻撃されることになります。ブラドー、そこそこ満足そうな顔してたんですけどね。約束を守ってもらえた、って。
ただハジメは、そこで繰り広げられる光景に納得いきませんでした。事情を聞いたところで、頭ではわかっていても気持ち的には分からん!という感じでしょうか。
ハジメはいきなり、ブラドーに攻撃しようとしているブラドーのかつての仲間にわざとぶつかりに行って、ムカつくからぶっ殺す、とまるでヤンキーのようなことを言い出します。で、当然ブラドーがそれを止めようとするのですけれど、止めようとするならお前も仲間だな?ならまずはお前殺す!とか言い出します。結局ブラドーは誰かに殺されるしかないわけですけれど、仲間に殺させるのではなく、むしろ仲間を守る形で殺されろと、ハジメはそう言ったわけですね。
果たして、ハジメと、もはや伝説級の古代種・吸血鬼のブラドーとの戦いが始まります。
29歳独身中堅冒険者の日常15巻の感想
仕方ねえなあみたいな顔するハジメ
喧嘩を売ってくるハジメに対して、ブラドーはあーだこーだと言って止めようとしてきます。これは君のためにも言ってるんだ。ギルドのトップである僕を誰が殺しても角が立つ。今は亡き親友の、今は亡き約束で終わるのが、誰にとっても一番‥‥。
で、この顔です。年寄りはうるさいなあみたいな、そんな表情ですね。まあタカを括ったハジメにとっては角が立つとかどうとか、もう全然関係ないんですよね。かと言ってああめんどくせぇみたいな感じでもなくて、なんて言うのかな、仕方ねえなあ、って感じ。後々面倒臭いことにはなるんだろうけれど、とりあえず今とにかく俺がお前をぶっ倒してやんよ、お前はちゃんと仲間を守って死ねよ、というそんなハジメの優しさが溢れ出ている一コマなのです。
挑発するブラド―
ブラドーがなんかすごく嬉しそうです。今までずっと冒険者ギルドという組織の枠に収まっていて、あくまでもギルドの幹部としてでしかものを話したりできなかったわけですけれど、ハジメにギルドの幹部だろうが関係ねえぶっ殺すみたいなこと言われて、やっと素を出せた感じかもしれません。素というか、この挑戦者を煽る感じ、古代種としての性でもあるんでしょうかね。
仲間なリルイ
リルイかっけぇぇぇってなった瞬間です。かつての仲間であった冒険者たちを守るという名目でハジメと戦いを始めたブラドーが、理性を失って本来守るべき人たちまでも攻撃しようとした時に、その人たちをどうにか守って避難させようとしたリルイ。リルイはまだまだ全然力不足で、ハジメとブラドーの戦いになんて絶対参戦できないくらいなんですけれど、それでも自分がやれることを見つけて即座に行動を起こすあたり、ほんと生粋の冒険者だなって思います。
もっと言うと、リルイは生粋の、ハジメの仲間なわけです。ブラドーと戦うことを決めたハジメを前にして、当初はどうすればいいのか迷っていたわけですけれど、最終的にはハジメがやろうとしていることを応援するというか、サポートしようとするというか。どうすればハジメが戦いに集中できるか、どうすれば一番ハジメを助けられるか、ちゃんと分かっているというか。ほんとこういうの、なんかすごくいいですよねえ。
黄金等級冒険者に認められる
個人的にすごくニヤリとした場面です。画像の彼女は黄金級の冒険者で、ブラドーの意思を尊重しようとずっと動いてきて、最後の最後でハジメのやろうとしていることに賛同して加勢した、対ブラドー戦における臨時のハジメの仲間です。黄金級といえば冒険者の中でも最上級のランクで、白銀等級のハジメよりもさらに上です。
ハジメと出会った当初はハジメを下に見ていて、白銀等級が手を出すなみたいなことを言っていたのですけれど、ハジメのブラドーとの戦いの様子を見てその認識を改めます。こういう強い人にちゃんと認められたみたいな場面って、やっぱすごく熱いですよねえ。
戦いが終わって
メによって倒されたブラドーが、本当にスッキリしたようないい笑顔で、ありがとうって言うんですけれど、それに対してハジメが「こっちは大変だったけどな」って返すんですよね。いやもうこれ「大変だった」ってレベルじゃないはずなんですよ。ギルド関連のいろんなしがらみとか、それなりに重大な違反とかもしてるわけですし、何よりこれまでの中で間違いなく最強の敵でしたし。
けれどもそんなことも含めて、「けっ!」で悪態つく程度で済ませてしまうあたりがなんともハジメらしいなって。恩に着せるわけでもなく、気を使うわけでもなく、余計なことも一切言わないで、ね。つくづくいい男だねえって、そんな感想なのです。
報酬
そしてブラドーが今まさに消えようって時に、ブラドーがハジメに問うんですよね。自分を倒した報酬は何がいいか、大抵のものは用意できるよって。それに対するハジメの回答がもうほんとすごかったです。最後の最後まで、ハジメが戦った理由ってやっぱりこれなんだよなーって。とにかくハジメのかっこよさが嫌でも分からされる、そんなエピソードなのでした。
事件のあらましの考察
単行本10巻あたりから始まったこのブラドーのエピソードもこれにてやっと終了ですけれど、結局どんな事件だったんでしょうね。ちょっとまとめてみようかと思います。
ブラドーは吸血鬼という古代種の1人です。ただ古代種と言っても最古の古代種、始祖のようなものだったのだと思います。メデューサのセキヒメ、サキュバスのヴェロニカやリルイといった今まで登場してきた古代種のキャラたちはあくまでも始祖たる古代種の子孫とかみたいなもので、きっと過去に始祖たるメデューサやらサキュバスやらか冒険者に討伐されて、その力が人間に宿っているだけという感じ。ブラドーだけは本当にほんとの古代種で、未だ冒険者にやられずに生き残っていたのでしょう。
本来ならどこかのタイミングで冒険者に倒されて、その力を次の世代にバトンタッチするはずなのが、いつまでも生き残っていた、と。本来なら倒されるはずだったのに当時冒険者たちの仲間になってしまって、その冒険者たちが死んでしまったらまた迷宮の主として次の冒険者に挑まれるはずだったのが、ブラドーは仲間であった冒険者たちのことを捨てきれず、またさらには下手に冒険者ギルドで地位を持ってしまったばかりに、ほかの冒険者に倒されることもできず、ここまできてしまったのかなと。
本来の始祖の古代種・吸血鬼たる性は、迷宮を作って冒険者を待ち受けたいのに、ギルドのトップとしての立場と、何よりかつての冒険者たちの仲間てあり続けたいという気持ちがそれを邪魔していた、と。言うなればこの騒動は、そんなブラドーの二面性が引き起こした事件だってことですね。
ブラドーの仲間の冒険者たちがちゃんと千年前にブラドーを倒していれば問題なかったと思うのですけれど、まあ殺してくれと言われても、なかなか仲間を殺すなんてできないですよね。それでずっとここまで来てしまって、まあ最後の最後でルドワルドが約束を果たすために頑張ってくれていましたけれど、やっぱり後味あんまりよくないですもん。
ハジメはきっと、そこまで深く何か考えてはいなかったでしょうね。ただブラドーはどうしても最後まで当時の冒険者たちの仲間として死にたくて、けれどもその思い出すらもううっすらとなってしまっていて、本来の性ももうそれを許してくれないほどに強くなっていって、だからハジメが、そんな「悪役」を買って出たと言うわけです。
始祖の古代種としての性を満たしつつも、最後までかつての冒険者たちの仲間として死ねるために。本当にハジメはめちゃくちゃ優しいですよね。そんな役誰だってやりたくないでしょうし。ほんとそういうの、すごいなあと思います。
まとめ
ハジメの漢気にとにかく惚れ直す29歳独身中堅冒険者の日常15巻の感想でした。まあここ最近ハジメがめちゃくちゃ強いもんで、もう中堅じゃないんじゃね?という感じです。あと下手すると四季も一巡以上しちゃっているような気がするので、29歳ですらないかもしれません。となるとちょっと今後タイトル変更も考えなきゃいけないんじゃないでしょうかね。
30歳独身最強冒険者の日常……。なんかいきなりなろう系みたくなってきましたね。そして独身は変わらずという。まあきっと望めばすぐに結婚できると思うので、その辺はまあいいかという感じですけれど。
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