こんにちは、ゆっちです。最近買った漫画の感想をねちねち語るコーナーでございます。今回は『悪役令嬢たちは揺るがない』です。
断罪されたり改心したり転生したり、時間巻き戻したり逃げ出してスローライフしたりと、これまでも散々擦られに擦られてきた悪役令嬢ですが、『悪役令嬢たちは揺るがない』はそのどれでもありません。一周まわって目新しい悪役令嬢たちの物語です。
『悪役令嬢たちは揺るがない』とは?

悪役令嬢たちは揺るがない1 (FLOS COMIC)
赤羽にな氏による『悪役令嬢たちは揺るがない』は、web小説サイト「小説家になろう」に八月八氏により投稿された同名の小説のコミカライズです。従来の「悪役令嬢もの」のテンプレートを鮮やかに覆し、高潔な貴族の矜持と理性を描いた作品です。
舞台はとある王立学園、多くの貴族の子どもが集まるこの学園に、無垢で愛らしい「聖女見習い」の少女アイニが編入してくることから騒動が始まります。
アイニは「身分に関係ない真実の愛」を標榜し、婚約者のいる王太子や上級貴族の子息たちに無邪気に接触します。世間ではそんなアイニを流行りの小説になぞらえて「ヒロイン」と、彼女に冷たいな態度をとる貴族令嬢たちを「悪役令嬢」と呼び、婚約破棄やざまぁ展開を期待する空気が漂い始めます。
しかし、主役となる三人の令嬢たちは、そんな周囲の浮ついた期待を文字通り「揺るがない」精神で一蹴します。
セラフィーナ・パーシヴァルタは王太子の婚約者で、圧倒的なカリスマと知略を持ち、王妃教育を完璧にこなす「完璧な淑女」です。そんな彼女の振る舞いは時として周囲から冷徹と評されることもありますが、その心の奥には次期王妃としての優しさと、次期王のパートナーとしての覚悟を秘めています。
サンドラは商才に長けた子爵家の令嬢で、直情径行で口は悪いですが、誰よりも貴族としての責任と義務を重んじています。それは場合によっては傲慢とも捉えられがちですが、決して己の自己保身や利権のためではない、確かな信念に基づいています。
ベルナルデッタは王家とは派閥の異なる侯爵家の令嬢です。家庭の問題から能力を隠していますが、実は非常に聡明で、静かに事態を俯瞰しています。本人もいつも自身なさげにおどおどしているので周囲からは侮られがちですが、聖女見習いのアイニにまつわる騒動をきっかけに自分を見つめ直すようになります。
彼女たち所謂「悪役令嬢たち」は、アイニの「無知ゆえの無礼」や、それに惑わされる婚約者たちに対し、感情的に反応するのではなく「貴族としての品格」と「社会的な道理」をもって、教育的指導とも言える苛烈な逆襲を開始します。
『悪役令嬢たちは揺るがない』のここがすごい

「悪役令嬢」とはいったいなんなのか
このお話の一番の魅力は、巷で「悪役令嬢と」囁かれている主人公たちが、一般的によく言われる「性格の悪い悪役令嬢ではない」という点です。むしろ「あまりにも正しく強くありすぎるがゆえに、凡人から悪役に見えてしまう強者」なのです。
作中で彼女たちはそれぞれ「悪役令嬢」として婚約者や家族、そして周囲から嫌われ、侮られ、蔑ろにされ、悔しかったり怒ったり、もしくは諦めかけたりすることもあるのですが、最終的に彼女たちは冷静に論理的に相手をねじ伏せ、その場に踏みとどまります。
蹴散らされた登場人物たちにとっては、あるいは格の違いを見せつけられた周囲からすれば、彼女たちはきっと「悪役令嬢」なのでしょう。相手よりも正しいと思っている自分がいとも簡単に、目に見える形で追い詰められたのですから。ですがそれは本当に悪役令嬢なのでしょうか。むしろ多くの読者には、現代的な「自立した情勢像」として非常にかっこよく映るのです。
「聖女と悪役令嬢の諍い」とはいったいなんなのか
このお話はセラフィーナやサンドラ、ベルナルデッタという3人の令嬢のそれぞれの視点のほかに、「ざまあ」される男性陣などの視点も1つのエピソードとして取り上げられています。そのため聖女候補であるアイニの行動やそれにまつわる騒動が立場によってどのように見えているのか、またその立場がどう移り変わっていったか、主観的あるいは客観的に捉えることができます。
事の真相、と言う程大げさではありませんが、片側の視点だけでは知り得なかったことが可視化されることで、「聖女と悪役令嬢」にまつわる騒乱の色々な見方を知ることができるのです。
「ざまあ」とはいったいなんなのか
本作では所謂「ざまあ」の要素がありますが、その本質は「無知な者への厳しい現実を知らしめる」ことです。
甘いロマンスだけでは語ることのできない貴族子女の「結婚」「婚約」という結びつきについて。
ただの贅沢と言うにはあまりにも責任の重い「高価な服飾を誇ること」の本当の意味について。
教科書をなぞるだけの薄っぺらい「学び」ではない価値ある知識と知恵について。
例え成人前であろうとも、生ぬるい馴れ合いや気軽な夢物語に溺れるだけの子どもに現実を突きつけるシーンは、読者に知的なスッキリ感を与えてくれます。
読者の反応は

「甘々な恋愛ではない、自分の足で立つ女性たちの生き様がかっこいい」
「なろう系だと、貴族なのに貴族である責任に対して、無頓着だったり軽んじてる作品が多いけど、この作品はそう言うのをちゃんと描いてる」
「悪役令嬢が主人公な物語はよくあるけど、転生も死に戻りもしないで人生に勝つのは割と新鮮」
「短いエピソードの連続なので読みやすい」
「1つの出来事をいろんな角度で見れて、その出来事の解像度が上がる。次から次へとあってもなくても良さそうなイベントの連続より余程いい」
「1つ1つのエピソードがあっさりしている。もう少しじっくり語ってくれてもいいと思う」
「もう少しこの世界観に浸っていたい」
「場面の転換が早くてテンポを重視し過ぎているように感じる」
などなど。まあいろんな意見がありますよね。
強くてカッコいい女性が、王子様の力でもチートでもなく、自分の知識と能力と矜持で真っ向から勝負する、そんな凛とした姿を見たい人はぜひとも手に取ってみてはいかがでしょうか。

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