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異世界ファンタジー

感想『夢降るラビット・タウン』星のささやきと人間の業。失った”夢をはかる物差し”を取り戻す物語

この記事は約9分で読めます。

こんにちは、ゆっちです。最近買った漫画の感想をねちねち語るコーナーでございます。今回は『夢降るラビット・タウン』です。

1990年代、通信教育のZ会の受講者向け会報誌に連載されていた漫画で、宮沢賢治の物語を猫のキャラクターで描いたますむらひろし氏の作品です。ますむらひろし氏というとアタゴオル玉手箱が有名ですが、最近Amazonで見かけてついポチッとしてしまいましたので、ちょっと語りたいと思います。

『夢降るラビット・タウン』は二足歩行するウサギと人間が共生する不思議な街を舞台にした、ファンタジックでどこか哲学的な連作短編シリーズで、独特の生命観と宇宙観が息づいています。


夢降るラビット・タウン 1 (MFコミックス)

『星降るラビット・タウン』ってどんな話?

物語の舞台は、服を着て二足歩行するウサギたちと人間が当たり前のように隣り合って暮らす町「ラビット・タウン」です。

商売の要である望遠鏡すら質に入れようとしてしまうギャンブル狂いの所長に頭を悩ませる、天文台職員の人間の青年辺太、そして大雑把でマイペースな上、子どもとのメンコ勝負に本気になり大人気なく相手のとっておきメンコを奪い取るようなうさぎのポンペイ、この2人が、ラビット・タウンで起こる不思議な事件に巻き込まれる様子が描かれています。

ラビット・タウンでは、日常と非日常が紙一重のバランスで存在しています。流れ星が流れる場所によって配当金がもらえるクジがあったり、動く人体模型ご人間の女性に恋してストーカーになったり、宇宙の法則の中を回転しているいちごが登場したり。

水をあげると大きく育つ植物の像が登場したり、まるでクラウドサーバーのようなサボテンが制作されたり、集団で周りに流されるまま崇拝するだけの人には決して見ることのできない稀代の陶芸家の作品があったり、音楽を奏でる雪の結晶を作ったり、盗んだブドウを食べると血の星座が吹き出したり。

1つ1つの様々なものや出来事が私たちの常識から一歩踏み出したところにあり、ですがそれがラビット・タウンで暮らす住民にとっては、非日常ながらも、淡々と受け入れられているのです。

『星降るラビット・タウン』の魅力

星降るラビット・タウンには、、タイトルに「星降る」とある通り、星や銀河といったモチーフが頻繁に登場しますが、それは星座の紹介や天文の素晴らしさを説くようなものではなく、そういったものがごく自然に隣にある、そんな世界観なのです。また季節の移り変わりや天気の変化など、自然の営みに焦点を当てているエピソードも多く、またその静謐で透明感のある描写には、深い洞察と愛情が感じられます。

それはまるで、どこか現実的ではない、幻想的な世界に迷い込んだ錯覚に陥ってしまいます。しかしながらそんな中でも、詐欺まがいの不動産売買や相手の弱みに付け込んだ取引などで儲けている資産家がいたり、弟子には厳しい修行を課しながらも自分は集めたお金でぬくぬくしている宗教家がいたり、どこまでも人間臭すぎる背景を持つキャラクターが登場し、夢のような世界にびりびりと亀裂を入れていくのです。

この、甘いスープの中にピリッとした辛みが、たまらなく癖になるのです。

また、星降るラビット・タウンには星や自然などのほかに、化石や古代遺跡をテーマにしたエピソードが数多くあります。辺太やポンペイたちは、ひょんなことから手に入れた年代物の小物やふとしたきっかけで発見した古代文字などの小さな手がかりから、何百年も、時には何千年もの永い間眠っていた古代の遺物を探し当てたり、謎を解いたりします。

この過程がなんとも冒険心をくすぐるのです。

「冒険」と言えば、今では剣を持って魔法を使って魔物を倒す、といったシーンを思い浮かべる人も多いでしょう。しかしこの物語ではそれよりももっと純粋な、例えば幼い頃、親の実家の古い大きな家の天井裏に初めて入る時のドキドキ感のような、地図を片手に知らない町を突っ切って目的地まで歩く時の緊張感のような、今になって思えばふとニヤニヤしてしまうような冒険がそこにあるのです。

今の時代、古い大きな家なんてものはどんどん少なくなっていて、知らない町もスマホのアプリがあればなんなく1人で歩ける時代です。ですがだからこそ、そんな冒険が新鮮で、読者の心に決して浅くない印象を残して行くのです。

星降るラビット・タウンで描かれるセリフもまた、非常に愛着の沸く不思議な魅力を持っています。

「うまいなあ……おめえんとこのにんじんケーキは最高だぜ」「あったりめえよ、たっぷしヨダレつけたこの手でかき混ぜるんだからな」

人間の世界では考えられませんが、ここはやはりウサギの町なのだと実感させられるセリフです。

「ワシのじいさんの代にあそこと「星の契約書」を交わしているんでな…」
「あららら、何星ですか?」
「たしか昂(プレアデス)だったな」
「すばるか……、ありゃ当分輝きますねえ…」

これは、1つの星の輝ける間を契約期間と定める一種の永久契約について語られるシーンです。星が生活に密着していることを表している、非常に秀逸なセリフたちですね。

「月光が体中にしみてくる…」
「たしかに月の光って、何かしら胸の中をソワソワさせるものがあるなあ」

月光が染みてくるというのは果たしてどういう感覚なのでしょうね。現実では絶対に体験できない感覚だからこそ、無駄に想像力が膨らんでしまいます。

「ヘチマは遠い昔から流れ星を予知していたんだ」

ここまで来るともはや意味が分かりません。なぜヘチマで、なぜ流れ星なのか。ただ1つ言えるのは、こういった意味の分からないセリフたちが、この世界観を強く色づかせているということです。

「たしかに今の子供たちは物差しを失っている。夢をはかる物差しだよ」

思わず考えさせられるセリフです。このシーンでは子どもについての言及ですが、子どもを卒業して大人になってしまった私たちの心に低く響いてくる言葉だとは思いませんか?

読者の反応は

Web上のレビューなどを見ると、

「疲れた時の特効薬」
「この街の空気感に浸るだけで心が落ち着く」
「現実逃避ではなく、心を整えるために読んでいる」

といった、癒やしの効果を挙げる声が多く見られます。

また、
「キャラクターの強烈な個性」
「ポンペイの図々しさが癖になる」
「不気味なのに愛らしい骨平太のエピソードが忘れられない」

など、一筋縄ではいかないキャラクター造形についても言及されています。

「普遍的なテーマ性」
「子供の頃に読んで不思議だと思ったシーンが大人になって読むと深い教訓に満ちていることに気づいた」

という、年齢を重ねるごとに発見がある奥深さもまた絶賛されています。

ただ逆に、
「独特の絵柄とシュールさ」
「最初は絵柄に馴染めなかった」
「シュールすぎて理解が追いつかない話がある」
という戸惑いの声も一部で見られます。

まとめ

『夢降るラビット・タウン』は、私たちが忘れかけている「星を見上げる心の余裕」を思い出させてくれる物語です。ますむらひろし氏の描く緻密な背景と、自由奔放なウサギたちが織りなすドラマは、単なるファンタジーの枠を超え、読者の心の中に「自分だけのラビット・タウン」を築かせてくれるような力を持っているのです。

なお、本作は一時期絶版で入手することが非常に困難でしたが、現在ではメディアファクトリーより文庫化されています。もし気になった方は、ぜひとも手に取ってみてくださいね。

……それにしても。

この『星降るラビット・タウン』ですが、冒頭にもお話しした通り通信教育のZ会の会誌で連載されていました。当時私が読んでいた頃は、勉強して偉くなるより自然を感じて暮らす方が人生は豊かである、といったある意味教訓的な隠し味を隠しきれていない作品という印象でした。

ですが、今になって読み返して見ると、確かに文明批判的な側面はあるものの、豊かな知識は教養として人生を豊かにする、そんなメッセージがあるように感じました。星座のロマンも、季節の移り変わりの切なさも、古代遺跡の冒険も、みな知識があるからこそ得られる成分なのです。

逆に知識も教養も、人間の真似しただけで全く身になっていない骨格標本の骨平太が、辺太やポンペイと同じところでロマンも切なさも冒険も感じられない描写を見て、いかに学ぶことが大事か、考えさせられてしまいました。

上手くできているものですね。ではまた次回。

ばいばーーーい。

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