漫画ニセモノの錬金術師4巻の感想です。面白いのですが、鏡の世界編、少し読むの疲れるという声も聞かれます。ただ、転生ボーナスが直接戦闘に役立たないパラケルススが、どのようにして危機を脱していくのか、所謂頭脳戦を繰り広げる様は、素直に関心してしまいます。
そして何より、ダリアの存在がとても良いです。鏡の世界にこれなかったノラの代わりに、完全にヒロインの座を奪ってしまったダリアの魅力についても語りたいと思います。
ニセモノの錬金術師とは?

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漫画『ニセモノの錬金術師』は、異世界に転生した青年「パラケルスス」が主人公のファンタジー作品です。
もともとは、漫画家の杉浦次郎さんがTwitterでネーム版のようなものをずっと連載していて、完結後2年くらいしてから、作画うめ丸さんで商業連載始まりました。
……杉浦次郎さん、他の連載もあってからか、自分では描かなかったみたいですね。
パラケルススは、完璧な錬金術を作り出せるチート能力「天地万能のレシピ」を持っているにもかかわらず、その力を隠しながら、ひっそりと錬金術師として暮らそうとしている物語です。
チートと言っても実は使い勝手があまりよくはなく、生活においても、度々巻き込まれる戦闘においても、よくなろう系などで見られる無敵の能力というわけではまったくなく、むしろ自分の能力をどうにか駆使して困難を乗り越えていくという方向性です。
異世界無双、ではなく、本当に地道に異世界を生き抜いていくという感じですね。
世界観や魔術、呪術の設定がかなりマニアックに作りこまれていて、説得力のある世界観が構築されています
ニセモノの錬金術師4巻の感想
ノラと汚いオッサン(神様)との戦いもなんとか終わりをつげ、あとは鏡の世界に引きずり込まれたパラケルススの戦いのみです。パラケルススはゴールディから逃げながらも、勝機を見出すために様々な策を講じていきます。
ですが……。
期待とのギャップ
Webで感想を見てみると、「求めていたのはコレジャナイ感が強い」という感想を持つ読者もいるようでした。読んでいて、多少疲れてしまう、と感じることも理解はできます。これは、錬金術を駆使した爽快な冒険活劇を期待していたにもかかわらず、物語がより複雑な頭脳戦や心理描写にシフトしたことによるものではないでしょうか。
またテキスト量もかなり多く、読み込むことがストレスに感じる人もいるようです。この部分は、裏を返せばそれだけ設定が練りこまれているわけでもあるので、表裏一体、好みの部分もあるのかと思いますが。
物語のテンポ
また、「鏡の世界編」が少々長く続いていることも影響していそうです。2巻の終盤から、戦って、少しうまくいってもすぐにまたピンチになって、というのを繰り返している感覚があります。押して引いて、というのは、敵の一筋縄ではいかない強さにつながっている証左ですが、同時に読者に対して単調と感じさせてしまう面もありるでしょう。
また作中で語られる魔術の原理や世界観は直感的に分かりやすいものではないため、それを理解するのに時間がかかるという意見もあるようです。むしろそこがこの物語の面白いところでもあるのですけどね。
ただ、現在「鏡の世界編」は2巻の終わりから、すでに2巻分以上継続されていますが、これ以上続くと読者が離れてしまうのではないかと懸念する声も見受けられました。
繰り広げられる頭脳戦
ただ、世界観の仕組みや魔術の仕組みなど、読み込んでいけばいくほど、その世界観にはまるってしまうのも、また事実です。特にここ最近の異世界漫画の傾向としては、力対力、純粋なヒットポイントと攻撃力がモノを言う戦いばかりが主流で、ここまで特殊能力が使いづらい主人公というのは珍しく、頭脳戦に新鮮味を感じてしまう部分もあります。また戦いの合間に見られるパラケルススの思考を追ったり、ひょんなことから同行することとなったダリアの気持ちの動きもまた見逃せません。
新しいヒロイン・ダリア

Twitterで連載されていた時からとても人気の高いキャラクター、ダリアの登場は、ニセモノの錬金術師という物語に新たなエッセンスを追加してくれています。ダリアが、パラケルススに過度に依存するキャラクターだからです。
他とは違う、新しいタイプの女性キャラ
これまでパラケルススの周りにいた女性キャラクターは皆、とても強い女性ばかりでいた。奴隷でありながら常にパラケルススの手綱を握り、主導権を渡さないノラ。錬金術師の最高峰で、ココに呪いをかけた張本人でありながらそれを隠している、油断のできないアグノシア。そしていかにも善人のように振舞いつつも、頭のネジが数本イカレていて、できればあまり近寄りたくはないノルン(パラケルススはノルンとは直接は会っていませんが)。
そのような中で、初めてか弱い女性が登場したのが、このダリアです。とは言っても、魔術の才能は非常に高く、また、実はその後の展開では、魔術以外の才能も大きく開花させます。スペック自体は非常に高いキャラクターです。
ほの暗い独占欲を抱える内気な少女

ダリアはパラケルススの決定に常に従いますし、自分が足手まといだと謝りますし、褒められて喜びますし、かばってもらうとさらに喜びます。パラケルススがダリアのために自分の目的を諦める時など、ダリアは「こんな時になんだけど」と言いつつ喜んでいました。そういうキャラなのです。そういうところがかわいいのです。
こういった、主人公にペタッと従うキャラというと、いかにもなろう系のヒロインという感じがします。それは否定できないでしょう。なろう系に限らず、主人公に依存するヒロインキャラに萌えっとなるのは昔から存在するわけですし。
ただ、ダリアの中にもほんの少し芽生える独占欲というか、パラケルススには見せられないほの暗い気持ちに気づいたとき、ダリアがもっと魅力的に見えてきます。まだ単行本になってない、連載版では、パラケルススが二度と鏡の世界からは脱出できない可能性を告げられて、ダリアはそれを喜んでいる様子が描かれていました。
また、まだ連載でも描かれていない原作では、ようやく手に入れたたった1枚の鏡の世界通行券を、あえて捨てるシーンもありました。これは例えパラケルススと一緒に鏡の世界から脱出できたとしても、すでに家にノラがいることから、2人きりではいられない、だったら鏡の世界でいたほうが2人きりでいられる、という心理からくるものです。
ダリアがいてこそこの物語はもっと面白くなる
分かりますでしょうか。
確かに、パラケルススに依存する少女ですが、その実とても人には言えない欲があって、そういうのが見え隠れするからこそこのダリアというキャラにとても愛着がわ沸くのです。
今後、パラケルススとノラの間にダリアが入ったことで、ニセモノの錬金術師はもっと面白くなります。そして今後の展開を最大限楽しむための、今このエピソードなのです。そう言うと、鏡の世界編を我慢して読むという誤解されてしまうかもしれませんが………。
ただ、今後の物語を読んでいくうえで、そしてその中心で暴れまわるダリアという少女を理解することは非常に重要なことで、またこの先を知っているからこそ、今の物語が3倍くらい楽しめているのもまた事実なのです。
まとめ
ニセモノの錬金術師4巻、鏡の世界での戦いも佳境に差し掛かる中、ダリアの魅力があふれる1冊でした。そしてチート能力を持つ主人公なはずなのに、とにかく苦労ばかりしているパラケルススの見事な頭脳戦もまた見どころです。
恐らく5巻には鏡の世界編は終了でしょう。最後の最後で、まさかゴールディがあんな終わりを迎えるなんて……、ととても楽しみです。
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