放課後帰宅びより5巻が発売しましたね。今回は放課後帰宅びより5巻を読んだ感想です。
最近では「次にくるマンガ大賞 2025」の特別賞「冷凍食品はニチレイ賞」を受賞、アニメ化企画も進行中ということで、なにかと話題に上がる機会の多い本作。その最新刊5巻では、直帰ちゃんと瞬が、お互いに、相手への気持ちを強く意識することになりました。2巻あたりから徐々にお互い好意を持ち始めてはいたんですけどね、ここまではっきりと相手に対する想いを自覚するのは初めてなのではないでしょうか。
しかもその表現方法がとにかく素晴らしい!
普通、恋愛モノというと、モノローグ的に登場人物の気持ちを表すことが多いじゃないですか。ですが放課後帰宅びよりでは、そういう「文字による気持ちの表現」というものが一切ないのです。
ふと顔が近づいてしまって「ハッ」とした時。
自分を理解してくれたと感じて嬉しくなった時。
しょうもないことでやきもちを焼いてしまった時。
布団を並べて寝ることになって、お互いの前では平然を保とうとするも、ちょっと油断すると、嬉しくも、それを顔に出しちゃいけないと必死に堪えている時。
一瞬一瞬の1コマに、そんな2人それぞれの感情がめいいっぱい溢れていて、読者そんな甘酸っぱさをこれでもかというくらい浴びてしまいます。さながら、強い光に身をすくめるポム爺さんのように。
そこには文字なんて一切不要です。むしろ邪魔でしかありません。きっとこの身の悶えるような青春の1ページは、登場人物の気持ちを文字なんかで表してしまったら、途端にチープに感じてしまうでしょう。

放課後帰宅びより : 5 (アクションコミックス)
余計なモノローグは排除!絵で語る登場人物の細やかな心の機微。

もともとこの放課後帰宅びよりの作者、松田舞さんは、柔らかく繊細な、かつ透明感のある絵を描かれています。そしてそんなタッチで描かれるキャラクター、直帰ちゃんのどこか物憂げで吸い込まれそうな瞳や、瞬の長身ながらもちょっと猫背な佇まいなど、2人の内面性をよく表すとともに、そこに生じる些細な感情の揺らぎまでも、とても丁寧に表現されているのです。
出会った当初は、お互いに向ける気持ちがほんの僅かなゆらめきだったものが、次第に大きくなっていって、いつしか隠し切れないほどの動揺になって現れていきます。直帰ちゃんも瞬も明らかに、お互いを意識して、自分の気持ちを自覚しています。ですが、絶対にそれを、明記することはしません。それでも、物語を追っている読者はそれを自然に感じることができてしまいます。そしてそれこそが、この物語の最大の魅力なのだと思います。
ドラマチックなノイズを排して、あくまでも2人の関係性の変化に焦点を当てる。

ついでに言うと、余計なノイズがないことも、この物語を、2人の関係性の変化を追っていく上で、とても重要ではないかと考えられます。
今回の放課後帰宅びより5巻にて、実は直帰ちゃんが、瞬のおばあさんの家に泊まりにいくにあたって、親に内緒にしていることが判明します。家族に対しては、女の子の友だちのお婆さんの家に行くことにしているんですよね。
「男の子の家に泊まりに行くことを親に隠している」。このようなシチュエーションは、物語を紡ぐ上では格好のドラマになるでしょう。親にバレる、トラブルが起きてことさら問題になる、など。しかし放課後帰宅びよりでは、そんな秘め事をさらっと流した上で、あくまでも2人の何気ない関わりのみに焦点を当てて語られていきます。
何かしらのマイナスなイベントが発生すると、それに伴った感情の変化なり、その先の関係性の変化など、多くのドラマが生まれます。物語を長い目で見て構成する上で、そういったイベントは全体のターニングポイントになり、読者の興味を離れさせない手法として、古くから用いられていました。
ですが放課後帰宅びよりでは、そういったものがほぼありません。それは、そもそも、この物語のテーマが「放課後」「帰宅」という、日常の延長にある些細な「ロマン」だからです。親にバレて怒られる、夜道を2人でホタルを見に行く最中にはぐれる、事故に遭うといったイベントは、日常の延長ではないから、ということですね。淡々と、しかしながらも徐々にお互いに惹かれあっていく様子だけを純粋に眺めたい、そんなニーズ応えてくれているわけです。
過去に他エピソードでも同様の「ノイズ排除」がありました。

こういったシーソーのような展開を避けているのは、4巻の新入部員のエピソードからも明らかですよね。直帰ちゃんが3年に、瞬が2年に進級した直後、新入生の女の子がハイパー帰宅部に入部を希望しますが、たった1話で退場します。きっとこのまま彼女がハイパー帰宅部に所属していたら、もう少し切羽詰まった、言うなればドロドロした展開だってありえたわけです。
しかし、そうはなりませんでした。ほんのちょっと直帰ちゃん心を斜めに傾けただけで、後輩の女の子はさっさと自分の部活を立ち上げて、ハイパー帰宅部から去って行ったのです。
余計なノイズを入れない。これもまた、この作品を語る上で重要なファクターなのだと思うのです。
さて、アニメ化について少しだけ。

アニメ企画進行中とのことですが、具体的なスケジュールまでは決まってないんですよね…。
通常漫画アニメ化するとなると、おおよそ単行本4~5巻分で1クールと言われていますので、現在5巻まで発行されているわけですから、ちょうどいいと言えばちょうどいいのです。もちろん、アニメの構成やテンポ、原作漫画のページ構成などによっても大きく変わりますが。
放課後帰宅びよりはセリフだけではなく、帰宅時の風景やキャラクターの表情の1コマ1コマも大事に描かれていますから、その雰囲気を大切にするとなると、もう少し原作の消化は遅くなるのではないかと思います。いえ、これはむしろ私の願望でもありますね。帰り道、夕陽に照らされた草木や建物、球技大会の保健室にて、遠くで聞こえる学校の喧騒。そういった細かい描写が丁寧に描かれてほしいというのがアニメ化に対する期待です。
直帰ちゃんというキャラは、一見不思議な子です。言葉遣いも普通の女の子っぽくないですし、帰宅にロマンを求めるなど、若干キャラが立っているように見えます。なので、もしアニメ化に際して、そんな直帰ちゃんのキャラクター性ばかりを強調してしまい、この放課後帰宅びより本来の魅力である、全体が醸し出すノスタルジーな雰囲気、絵から伝わる夕焼けの帰り道がおろそかになってしまうことを懸念しているのです。
また、先に1クールおよそ4~5巻という話をしましたが、2人の気持ちの変化をたどるうえで、1つ1つのエピソードがとても重要なだけに、ただただ既刊5巻分を消化しようと駆け足になってしまわないか、もしくは引き延ばそうと変なエピソードが追加になってしまわないか、そのあたりもちょっと不安です。オリジナルのエピソードがすべて悪いと言うつもりはないのですが…。やはりこの雰囲気はぜひ大切にしてほしいというのが、1ファンの切な祈りなのです。
ということで、今回は放課後帰宅びよりについてのお話でした。おしまい。
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