こんにちは、ゆっちです。最近買った漫画の感想をねちねち語るコーナーでございます。今回は「迷宮クソたわけ(せいほうけい版)」です。最近やっと第3章89話までのまとめ本が出たので、おしゃべりしたいと思います。
迷宮クソたわけについて

迷宮クソたわけ 第82話~第89話まとめ せいほうけいコミックス
『迷宮クソたわけ』は、きらびやかな英雄譚とは対極に位置する、泥臭くシビアなダークファンタジーです。物語の舞台は、巨大な迷宮を中心に経済が回る「迷宮都市オイザック」。主人公の少年「ア」は、自分の名前すら持たない貧弱で気弱そうな債権奴隷です。
本作の最大の特徴は、徹底した「非チート」と「リアリズム」にあります。多くのなろう系小説で見る「一発逆転の特殊能力」や「ご都合主義的な幸運」は存在しません。新人冒険者にとって迷宮はタイトル通り「クソたわけ」な理不尽の詰まった場所なのです。たった3匹の大ネズミに殺されかけ、1つ階層を潜ればたちまち強力になった魔物に逃げ回る羽目になり、宝箱の単純な罠1つでいとも簡単に、昨日まで笑い合っていた仲間を失ってしまいます。
そんな過酷な日常の中で、アは奴隷という立場から生き延びるため、わずかな魔法と論理的思考を武器に迷宮に挑んでいきます。
人への明確な害意のある迷宮のほかに、アは生き延びるため常に社会とも相対しなければなりません。舞台となるオイザック城塞都市は、「迷宮で経済が成り立っている」という歪な構造を持つ都市で、冒険者は英雄ではなく単なる「経済の歯車」にすぎません。近年では奴隷を購入して冒険者として育成し、迷宮で稼がせた上がりを搾取する「投資」が流行しています。アもその例にもれず、債権奴隷としてラタトル商会の主人によって「投資対象」として買い上げられた存在です。
権力者は冒険者に接触するのは、あくまでも「金づる」だからであり、利益にならなければ即座に切り捨てるというドライな倫理観で支配されています。
また冒険者組合なる組織も存在しますが、他のファンタジー物語のように、冒険者の権利を守る等といった思想は全くなく、単純に、ただの徹底した事務組織です。若者が迷宮で命を落としても、それは冒険者組合にとって、ただ書類が1枚ファイルから外されるだけのこと。冒険者組合が関心を持つのは「事務手続き」と「受講料」のみなのです。
冒険者の命の価値が極めて低いこの世界の象徴的な組織と言えるでしょう。こういった理不尽さの中で、アは迷宮内外の様々なトラブルに巻き込まれながらも、嘘とハッタリとわずかな魔法を使い必死で自分の命を掬っていく、そんな物語なのです。
迷宮クソたわけ第3章のあらすじ

さてそんな「迷宮クソたわけ」ですが、最近やっと第3章が終わって、まとめ本が出ました。第3章は舞台を迷宮から都市に移し、都市の歪である裏社会との戦いがテーマになっています。これまで、第1章が「迷宮の中と外に広がる理不尽さ」が、第2章が「迷宮における人と魔物の違い」が描かれてしましたので、ちょっと目線が変わったように感じられます。
舞台を迷宮から都市に移し、と述べましたが、決して迷宮が登場しないわけではありません。物語は常に迷宮を中心に動いていますし、迷宮での営みあっての都市ですから(とは言ってもカクヨムでもっと先まで連載されている原作小説では迷宮が殆ど登場しない章もありますが)。
第3章の敵は花街を仕切るギャング、キュードファミリーです。脈絡もなく急に怒り出し相手を死ぬまで痛めつけるような、頭のネジが2、3本外れているような男がトップを務めていて、都市に住む誰もが彼に関わってはいけないという共通認識を持っています。
もともとは遠方の「大洋浜小屋連合」の尖兵でした。迷宮都市の商人たちからすれば、それは「外から流れてきた新顔の若造」だったのですが、エランジェスはそうやって侮る商人を全員、家族も使用人も別の土地で暮らす親兄弟もみんなまとめて始末しました。暴力を生業にしていた者も自慢の用心棒を雇っていた者も関係なく、みんな挽肉にされて地面に撒かれたのです。
エランジェス本人が迷宮冒険者のように強い力を持つわけではありません。ただ「そういうこと」をなんの躊躇いもなく決断し、それを実行できるだけの組織力を持っている相手であるということです。
本来であれば債権奴隷であるアにとっては全く関係のない相手でした。アは性格上花街に繰り出すような男ではないですし、そもそも立場上財産を手元に置いておけないため花を買うということ自体ほぼ不可能です。
ですがアは第1章、第2章における功績から、冒険者組合から一目置かれる存在になってしまっています。これが一般市民階級出身であれば英雄として美味しい目を見ることもできたのかもしれませんが、奴隷であるアはむしろ組合から厄介な案件を押し付けられることのほうが明らかに多い、所謂「使い勝手の良い存在」になってしまっていました。
結果、冒険者組合とキュードファミリーの都市を巻き込んだ大きな騒乱の火種を抱えることになってしまったのです。
迷宮クソたわけ第3章の見所

第3章の見所はなんと言っても、主人公のアの立場の変遷です。
アはもともと債権奴隷でした。彼が冒険者として稼いだお金をアの所有者であるラタトル商会の主人が掠め取り、本人はいつまで経っても奴隷のまま、そんな搾取されるだけの存在でした。それがいつの前にか冒険者組合の中でも無視できない存在となり、奴隷であることは変わらないものの、その地位を強固なものとしていきます。
ラタトル商会の主人からは、いつからか内に潜む危険要素に対する対抗馬として期待されていました。それこそ、共に酒を飲もうと誘われるくらいに。
冒険者なりたての頃からの仲間であるルガムとは、もともと第1章の頃から将来結婚を約束していた仲ですが、とうとうその関係を先に進める決意しました。
ただし勘違いしてはいけないのが、これはただの主人公アの立身出世の物語ではないということです。確かにアはこれまでの多くのトラブルを乗り越えて大きく成長しています。魔法使いとして、冒険者としてレベルを上げたことはもちろんですが、それ以上に数々の難題を自身の話術とハッタリできり抜ける知恵をつけ、自身の立ち位置を守ることに成功してきました。
ですがそれは、言ってしまえば無相応な立ち位置でもあります。奴隷としての身分、まだまだ上級とも言えない冒険者としての実力に見合わない過分な評価でもあるのです。それは、今回第3章で戦ったエランジェス(と言っても直接戦い倒したわけではないですが)に近いものを感じます。人脈とその背後に存在する組織を間接的にせよ動かせるようになってきているのです。
奴隷でありまだまだ侮られその価値を低く見積もられる立場でありながら、誰もが無視できない存在になってきました。ただ単に利用価値があると言われればそれまでですが、それでも自分の利用価値を活かせるくらいには、アは度胸があり、小賢しいのです。
第3章でアは、結果的にはただただ抗争に巻き込まれただけの人物でした。ですがきっかけになったのはアであり、またアに利用価値があると判断した多くのより小賢しい人間たちによって守られ苦難を乗り越えました。本人の奮闘と絆で結ばれた仲間たちの支援あってこそ生き残れたこともまた事実なものの、アがこれまで築いてきた取り巻く環境があってこそであると言わざるを得ません。
主人公アの今後の活躍への期待
毎回、巻き込まれたと言いつつも絶妙なバランスで悪意の中を立ち回り、いつの間にか盤面をひっくり返す手を繰り出す、アはまさに物語のトリックスターと言えるかもしれません。今回の争いを生き延びたことによって得た功績と負債は、きっとアに新たな役割を与えることでしょう。それでもきっと様々な場面で仲間を増やし、協力者を得て、いずれは権力者も無視できないほどの力をつけて行くのではないでしょうか。
本人はきっと、自分には不相応だと言うでしょうが。そんなアに、今後も期待したいと思う今日この頃なのでした。

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