「悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。」は、小説家になろうで連載されている長編小説で、2018年4月から連載開始、2019年6月に書籍化、2020年3月にはコミカライズも果たしています。
8歳で、乙女ゲームの極悪非道ラスボス女王プライドに転生していたと気づいた主人公が、本来自分が絶望の底に叩き落とすはずのヒロインや攻略対象を、前世のゲームの記憶とラスボスチート能力を頼りにどうにか救おうと立ち回るという物語です。
まあそれだけだと割とよくある普通の悪役令嬢転生ものですけれど、この主人公はとにかくめちゃくちゃ怯えています。何にかっていうと、それは自分の将来についてです。きっといつか自分は最強外道のラスボス女王になる、となぜか強く強く信じているんですよね。
割とちょくちょく前世でプレイしたゲームの展開がフラッシュバックするからかもしれません。フラッシュバックするシーン、だいたい自分が攻略対象やらヒロインやら、あるいは国の民だとかを必要以上に虐げたりとか不幸のどん底に叩き落とすシーンばかりなんですから。
とにかく、いずれは自分が外道女王になることを見越してか、攻略対象たちを救った上で、自分が道から外れたらちゃんと殺すように、あるいは自分がいなくなってからも善政が敷くようにと、着々と攻略対象たちに密かにお願いしていて、それが主人公の優しさを感じるとともに、物語の儚さを感じるんですよね。
攻略対象たち、絶望に叩き落とされるところを救ってもらった上でそんなお願いをされて「えっ?」ってなるんですけれど、だからこそ絶対そんなことにさせないってより強く主人公を想うようになって、同時に読者的にも「そんなことにはならないよね?」ってはらはらしながら今後の展開から目を離せない、そんなところが魅力の物語です。
最強外道の悪役女王の非道っぷり
気に入らない臣下をすぐクビにするような超絶わがままであった第一王女のプライド。王配である父親が事故死、それにショックを受けて後を追うように母親である女王が死亡した後、第一継承者として若くして女王となったプライドはこれまで以上にわがままし放題となります。母親の愛情を独り占めしていた妹・第二王位継承者のティアラを離れの塔に軟禁。好き放題に贅沢三昧して国を傾け、多方面に牙を向けまくり平和だった国を周辺国からめちゃくちゃ警戒されるような独裁軍事国家へと変貌させ、自分の欲望のままに、あるいは気まぐれに、関わる多くの人々を絶望のどん底に突き落とします。
国の騎士団に対しては、崖が崩落することを知っていながら崖に移動する騎士団の新兵たちを放置。その騎士団を守るために最後まで戦う騎士団長を見殺しにし、さらには崖の崩落で全滅した騎士団の死を全て騎士団長の責任にして、その誇りに泥を塗りたくつたりもしました。
また友好国の王子を奸計により陥れそれによって負った一生ものの心の傷を延々と抉り続けたり、高価な宝石の産出国の王族を手のひらの上で転がして最終的にその国を乗っ取ったり、なんかもうわがままという範囲を明らかに逸脱しすぎた悪行をとにかく繰り返すのです。
せっかくなので、物語の主要人物・いわゆる乙女ゲームの攻略対象に対して、本来のゲームの展開における最強外道悪役女王の非道っぷりを画像とともに少しだけ紹介します。
最強外道ラスボス女王と義弟ステイル
稀有な能力者というだけで親元から離され弟として王宮に連れてこられたステイルを、徹底的に虐め抜く最強外道ラスボス女王プライドです。いやまあこのかわいさですからね、こんな娘にいじめられたいという奇特なお兄さんたちもいるかもしれませんけれど、いかんせん実際にやらかした内容がもう外道すぎです。
まず第一に、ステイルを騙して隷属の契約を結びます。これは、なんか不思議な力で相手を強制的に従わせる魔法みたいなやつです。隷属する人間は主人には決して逆らえず、極端な話死ねと言われればどう抗っても死ぬしかないみたいな、そんなヤバいやつなんですよね。
で、まさかあろうことか、そんな強制力でもって命令して、ステイルに自分の母親を殺させてしまうのです。
「なぜこんなことをした!」
というステイルの問いに対してさらっと、おもしろいから、と言ってしまうあたり本当にこの外道はクズだなあって思いますよね。
ちなみに画像はステイルが外道プライドを殺そうとして、けれども契約の強制力のせいで絶対に殺せない、そんな場面です。
どういう仕組みなんでしょうね。
さてこの後も、外道プライドはステイルにさまざまな非道な命令をどんどんしていきます。なんかこう、暗殺だとか、そういう黒い命令みたいなやつです。隷属の契約をしてしまったステイルは外道プライドの命令には絶対に逆らえないというのもあるでしょうし、早い段階で心をポッキリ折ってしまっているというのもあるかもしれません。果たして、生きながら心は完全に死んでいる状態のステイルが完成というわけです。
最強外道ラスボス女王とジルベール
外道プライドのとっても悪い顔です。いえすごくかわいいんですけどね。ただこの外道プライドがこういう顔をしているのって、まあめちゃくちゃ悪いことを考えている時なんですよね。ちなみにこの画像は、ジルベールというとっても優秀な宰相が城の中に密かに隠していた病気の恋人を、外道プライドが見つけた時の顔です。
病気と言っても病原菌など由来の病気ではないため誰かに感染するリスクなどはありません。ただただ体が弱っていくというだけの病気です。けれども外道プライドにとっては、とりあえず自分の城に病人がいるということ自体がなんか嫌なんだとか。
「ここは下級層の人間の物置じゃないのよ?」
「治療法もなくて原因不明の病なんでしょ?そんなの処分が一番に決まってるじゃない」
いやもう煽る煽る。
ジルベールとしては、先の王の許可をもらっているとはいえ、今この時は外道プライドがこの国のトップですからね。それに王城で治療を受けさせてもらっている手前、どうしたって頭を下げるしかないわけで。
でそういう状況を盾に、外道プライドはジルベールに、通常の倍以上仕事をさせたり、散々こき使った挙句結局病の恋人は助けなかったり、さらにはジルベールが5年かけて無理して作った法案を自身の独裁のために使って大勢の人を虐殺したりするわけです。なんというか、ほんといいように使い潰してポイっと捨てるような感じですね。
そして自分の作った法案が外道プライドの恐怖政治の悪用されるところを見て、ジルベールは目に見えて病んでいくわけです。
なぜゲームのプライドは最強外道のラスボス女王となったのか
ゲーム中のプライドはこれでもかというほど関わる人々を不幸のどん底に陥れ、国が傾くまでに暴虐の限りを尽くすわけですけれど、そもそもなぜプライドはそうなってしまったのでしょうか。他の悪役令嬢モノなんかを見てもここまで突き抜けて悪の道をひた進むキャラはなかなかいません。そのあたり少し深掘りしてみたいと思います。
プライドの悪行の根底にあるもの
ゲームのプライドはとにかく人が苦しむ様子を見るのがとても好きなようです。なんていうかですね、プライドって誰かの不幸の発端になることって実はそんなにないような気がするんですよ。
たとえばステイル。確かにステイルはプライドによって母親を殺すことを強要されて、以後その業を背負って生きていくという生きながらにして地獄を味わい続けることになるのですけれど、そもそものステイルの不幸の始まりは自身の稀有な特殊能力ゆえ王宮によって母親のもとから離されてしまったことです。これに関してプライドはノータッチで、あくまでも王宮の決まりというか、特殊能力を持って生まれてしまったが故の不幸です。プライドがやったのはこのステイルの不幸ををより大きく、取り返しのつかないものにしたというものです。
ジルベールにしたって、そもそもはジルベールの恋人が原因不明の病によってベッドから起きれなくなってしまったことが不幸の始まりで、プライドはそこにその何十倍か、あるいは何百倍かの不幸を上乗せさせたというものでした。騎士団にしたってたまたま新兵の演習を他国と共同で行おうとしたところ襲撃され、それによって生じた不幸にさらに手酷い追加攻撃を加えたようなものです。
まあ国を荒廃させるに至った経緯についてまでは詳しく作中では述べられていないので、そこらへんもしかしたらかなり能動的にプライドが働きかけたってこともあるのかもしれませんけれど、少なくとも主要登場人物に対するプライドの悪行の数々はあくまでも、「起こってしまったこと」の傷口をさらに大きく深くしていくことが中心なんですよ。これってもしかして、最強外道ラスボス女王のプライドを読み解くにあたって結構重要なことなんじゃないかなって思うのです。
ただ一方で、自分だけは特別という驕りというか、自意識過剰的な側面もあったかとは思います。プライド自身「予知能力」という非常に稀で有用な能力を持っていました。そしてジルベールをこき使って、国内で生まれた人間が特殊能力を持っていた場合それを国に届け出することを義務化する法案を発令、それによって特殊能力を持つ人間をすべて自分の管理下に置くことを定め、さらに自分に服従しない場合はそれを処刑しまくるという悪行を繰り返しました。これは「自分より上を作らない」という独裁者的な観点であるかと思いますけれど、それと同時に特殊能力者として生まれたアドバンテージとか、特殊能力者として享受できるかもしれない幸福を許せない、という考え方もできます。
つまりですね、なにが言いたいかというと、とことん自分より幸福な人は存在してはいけない、という考えなんじゃないかなということなんですよ。これってつまりプライド自身が、自分を不幸だと思ってるってことなんじゃないかなと思うのです。
原因は幼少期か
舞台となるフリージア王国は、代々未来予知の特殊能力を持つ女性が女王となり、王配がそれを夫として支えるという歴史があるそうです。女王の子どもが必ず未来予知の能力を開花させるのかとか、もし王家の血筋で未来予知の特殊能力を持つ子どもがいなかった場合どうなるのかなど詳しいことは分からないですけれど、とにかくそういうことになっていると語られています。
そして当然のように、プライドの母であるローザもまた予知能力の特殊能力を持ち、女王の座についていました。で、そのローザが、プライドを産んでしばらくしてからプライドについて予知したそうなんですよね。王位を継いだプライドが最強外道の女王となって民を虐げる姿を。そしてローザはそれを受けてプライドを遠ざけるようになったとされています。将来、第一王女であるにも関わらず王位を継がせるわけにはいかないと伝えたとき少しでも傷つかないようにと。
私からしたらもうその時点で間違ってると思うんですけどね。たとえ王位を継がせなかったとしたって、母親であるのに変わりないんですから。けれどもそもそも母親の愛をほとんど知らずに育ったローザには、それが精一杯だったのかもしれません。
もともとローザ自身あまり母親に構ってもらったことがなかったようなんですよね。加えて代わりに面倒を見ていた乳母がこれまためちゃくちゃ厳格な人だったようで。
鶏が先か卵が先かという問題はありますけれどともかく、プライドが最強外道の道に足を踏み込んでしまった原因ってきっとこのあたりにあるんでしょうね。ある日突然自分に冷たくなった母。気を引こうと悪さをしてそれでも母は構ってくれず、それどころかあからさまに避けるようになって。悪さを重ねることで周囲の見る目もどんどん悪くなっていって、いつしかそれが自分のアイデンティティになっていったのではないかと思うのです。それでもまだそこまでならよかったかもしれません。問題はその後です。プライドが未来予知の能力を開花させたことで、プライドは自分の知らないところ妹がすでに産まれていて、しかもその妹が母親の愛を一身に受けて育っていることを知ってしまったわけです。仮にですけれど、母親の気を引きたくて悪さを重ねていたのが、もうすでに母親の興味はすでに妹に移っていて、自分の元に残ったのはただただ王女として不適格であるという評価だけってなってしまったのだとしたら。これで精神捻じ曲がらない方がよっぽどおかしいでしょう。
本当に心から欲しいと望んでいたものが実はもうとっくの昔に奪われていて、もはや何もかも取り返せないところまで来てしまっていて、そんな時に、いかにも自分は不幸ですって顔した自分より恵まれている、母親から愛されて育ったであろう少年が弟として自分のもとにやって来たら。あこれステイルのことですけれど、なんかもうめちゃくちゃにしてやりたいって思っちゃうんじゃないでしょうか。母親にたっぷり愛情を注がれて、たかが生き別れただけだというのに私の前で不幸ぶるなんてって。
突然の襲撃で死地に追いやられてなお周囲から多大な信頼と尊敬を集める騎士団長も、動けなくなってただ死を待つだけの状態になってもまだひたすらに愛を受け続ける宰相の恋人も。
もちろんそんなの逆恨みですらないただのいちゃもんなんでしょうけど、それでも「そんなに不幸ヅラしたいならもっと不幸にしてやるわっ」って気持ちはちょっと分かんなくもないんですよね。
まとめ
最強外道ラスボス女王のプライドがなんであんなに捻じ曲がったのか、どんな経緯があってそうなってしまったのかに継いてつらつら語ってみましたけど、どうでしょうかね。
最強外道プライドの心情について語られる場面ってそうそうないですから大部分想像でしかないんですけれど、ちょっと深掘りして考えると気持ちわからなくもないかなあとか思わないでもないという。まあでも、もしもっとこういう考えもあるよって人いたら、ぜひぜひ教えてくださいね。
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