この世界は不完全すぎるのレンやアキラというキャラがとっても魅力的だなあと思ったので、つらつら語っていきたいと思います。
特にアキラは、初登場時は敵プレイヤーをバッサリと切り捨てたり、プレイヤーのせいで狂気に陥ってしまったNPCをあっさり殺害したりと、めちゃくちゃダークな一面を持つヒーローのような存在だったアキラ。でしたけれど、のちにそれが若さゆえの純粋さであり、また同時に仲間をとても大切にするキャラでいることがわかりました。
またレンも、非常に優秀で誰からも一目置かれるような素晴らしい人物でした。たくさんの人をまとめ上げ、1人1人から悩みを聞き、それの解決のためになにができるのかをとにかく真剣に考えてくれているそんなキャラでしたけれど、話が進むにつれてどんどん心を病んでいきました。
そして今回、この世界は不完全すぎるの9巻にて、2人のさらなる一面が分かったというか、浮き彫りになったなという感じがしました。今回はその辺について中心にお話ししていきます。
この世界は不完全すぎるの8巻までのあらすじ
完全体験型VRゲーム、キングス・シーカー・オンラインからログアウトできなくなって1年、デバッガーのハガは、ほかのデバッガーとともにゲームに閉じ込められていてもなお、デバッグを調査して運営に報告していました。意味があるのかは知らんけど。
仲間になったデバッガーのアマノ、アカネ、そしてアキラとともに、同じくデバッガーであるレンの手によって、地下100階の超難関ダンジョンに閉じ込められてしまいます。同じくレンによってダンジョンに閉じ込められたマユを仲間にして、なんとか、1年という歳月をかけてダンジョンを攻略して脱出に成功しましたけれど、今度はそのレンとその仲間たちから攻撃を受けてしまいます。
実は閉じ込められたハガの仲間のうち、アカネとアキラとマユはもともとレンの仲間で、特にアキラは閉じ込めたのが仲間のレンであるとは絶対に信じないという感じだったのですけれど、まあこれで確定的になってしまったんですよね。果たしてハガたちとレンたちは真っ向から正面衝突、お互いの総力をかけた戦いが始まります。
レンもその仲間たちも、キングス・シーカー・オンラインに閉じ込められてから、だいぶ参っていました。そこでレンは、なんと参っているというプレイヤーを1人1人NPCに変えていってしまっていました。ハガたちをダンジョンに閉じ込めた後の話です。
レンの仲間たちとは、レンとともにゲームに閉じ込められたデバッガーたちです。プレイヤーとしての意識を完全に消し去ってしまったということになりますね。そして最後に、レン自身もその処置を受け、NPCになってしまったのです。
果たしてこれがどういう意味を持つのか。ログアウトできない状況でそのプレイヤーが死んでしまったり、その意識を消されてしまった場合、そのプレイヤーはログアウトできているのか。それともログアウトもできず、ゲームに閉じ込められているのか。閉じ込められているとしたら、その間の意識はどこに行っているのか。答えが出ないまま、ハガたちはNPCとなってしまったレンたちと全面戦争をすることになるのです。
最新刊9巻のあらすじ
お互いの陣営が互いの神を召喚して戦います。神というよりは巨大なロボット同士の戦いといった感じでしたけれど。敵のド派手な攻撃に最初は戸惑い押され気味でしたけれど、マユの卓越した技量で神を操作してそれを押し返し、またハガたちもダンジョン攻略によってレベルが大幅に上がっていたこともあり、徐々にレンたちを追い詰めていきます。
けれどもあと一歩というところでアキラはレンをかばい、その隙をついてレンがアキラをNPCにしてしまいます。
レンはちやほやされたいだけの孤独な悲劇の主人公
レンはNPCになどなってはいませんでした!周りのすべてのデバッガーを全員NPCにしておいて、1人だけNPCにはならず、これまでの生活を送っていたのです。いえ、これまでの生活というわけでもないかもしれません。彼は彼なりにかなり苦しんではいるようでした。けれども、だからと言って、自分以外の周囲すべてのプレイヤーをこの世から消し去ってしまっていいものでしょうか。
言うなれば、この世界の苦しみから逃れるために、皆さん死にましょう、大丈夫、絶対天国に行けますからと言って集団自殺させる教祖のようなものです。しかも始末が悪いことに、レンは「自分が苦しかったから仕方なかったんだ!」ということを言いだします。
もともとは責任感も強く、誰よりも人を思いやれる人だったんじゃないかなと思います。だから、デバッガーが皆ログアウトできなくなった時には1人立ち上がり、皆をまとめてグループを作ったのです。けれども自分が取りまとめたメンバーたちが皆思い思いの悩みや苦しみを聞いてあげているうちに、なんで自分が聞いてやらなきゃいけないんだって思うようになったっぽいんですよね。
仕方ない部分はあるかと思うんですけれど、それでも、だからと言ってこれまで一緒に生活してきて、苦楽をともにしてきたメンバーを、その人格を、あっさりと消し去ってしまえるものなのか、それがちょっと理解できませんでした。
けれども考えてみると、こういう人って結構いるんじゃないでしょうか。学校でも会社でも、率先して皆のまとめ役になってグループの中心にいるのに、いざ困難に直面すると罪を他人に擦り付けて、責任を転嫁して、自分は悪くないんだって豪語ような。
東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)
ここでふと思い出したのが、十二国記の「東の海神 西の滄海(延王・尚隆の物語です)」に登場する斡由(あつゆ)です。あれも確か、基本うまくいっているときはとっても良い、しかもすこぶる有能な州の長(代理)なのですけれど、ひとたび物事がうまくいかなくなると途端に豹変してうまくいかないことをすべて他人のせいにし、自分はとにかくひたすら悲劇の主人公のようにふるまっていました。
なんていうんでしょうね、周りにいい人だ、素晴らしい人だとちやほやされていたい人っていうんでしょうか。だからそのために、人のためになることをひたすらがんばって、だからなおさら周囲もその人をもてはやすんです。もうリーダーは彼しかいない、彼ほど素晴らしい人はいないって。けれどもだからこそ、誰かのために泥をかぶったりとかは絶対許せないですし、自分が失敗するのとかは絶対に人に見られたくない、知られたくないって感じなんですよね。
レンはきっととっても優秀で、思いやりがあって、自分よりも他人のことを優先して行動して、失敗なんて一切しない人です。けれどその陰で、自分の汚点になりそうな人をひそかにダンジョンに突き落として亡き者にしたㇼ、それでも足りなくなってくると、今度は今まで自分を慕っていたい人たちを皆殺しにしてしまったりするのです。
で、誰もいない、ただ1人になって、あれはしょうがなかったんだ、自分のせいなんだ、悪いのは全部自分のせいなんだって悲劇の主人公になるわけです。
もう見てくれる人なんか誰もいないのに、ね。
この世界は不完全すぎるのアキラという女性について
もともとアキラは、エンタメイションに職業体験としてやってきただけのデバッガーでした。ハガやアマノたちと違い、まだ全然学生だったんですよね。ゲームからログアウトできないと知った時には、きっと他の人とは違った絶望があったでしょう。アマノも独りごちていましたけれど、ただフラフラしてるだけの大人とは時間の感覚も、そして失う将来の大きさも桁違いなはずです。
周りの大人たちも皆混乱してどうすればいいかわからない中、話を聞いて、道を示してくれたのがレンでした。
「ボクたちの話を聞いてくれて、慰めてくれて‥‥」
「もう一度生き返らせてくれたって感じ」
上はアキラの話ですけれど、これだけでもアキラがレンに心酔していることがよくわかります。ぶっちゃけアキラはこの時点でレンに惚れていたんだと思うんですよね。普通の恋愛感情ではないにせよ(と言ってもそもそも普通の恋愛ってなんなのかって話ですけど)、ただの「仲間」の域を超えた、強く依存した関係でいることは間違いないと思うんです。なんて言うんでしょうね、ちょっと語弊あるかもしれませんけれど、家にも学校にも居場所がない少女が自分を助けてくれた年上のかっこいいお兄さんに「これは恋じゃないよ」って言われて「そうだねこれは恋じゃないよね」って言いながらもうその人なしでは生きられないと勘違いしちゃうような関係というか。
遠征から戻った時に「ストレスを軽減のため」に濃厚なキスをするんですけれど、それだって読者からすれば「単に言いくるめられてるだけじゃん」と思うわけじゃないですか。少なくとも私はそう思いましたけれど、皆さんはどうでしょうかね。
こういった状況・関係をここではあえて「ちょっと歪んだ恋愛感情」と表現しちゃいますけれど、アキラはまさにそう言う状態だったんじゃないかなと思うわけです。
さて、そんな中アキラはレンの手によって(正確にはレンとアルパですけれど)ダンジョン最下層に飛ばされてしまいます。アキラにとってみれば、信頼して依存していた相手に裏切られたというわけです。先述した状況の少女が、その優しいかっこいいお兄さんに、実は見放されていたことを知った時の感じです。状況的には完全に裏切られているわけですけれど、そんなこと絶対に信じられない、信じたくない、みたいな。
そんな時にアキラはアマノに優しくされるわけです。アマノは、レンとは別の観点からアキラを救おうとしていました。アキラが目を背けていたこと、ゲームの世界からログアウトできない状況に対して、解決策を探していこうと話すわけです。先述の家出少女の件でいえば、もう1回、目を背けていた家庭や学校の問題と向き合っていくことを提案したと言う感じですね。
どっちが正しいとかは、ここでは言及は避けたいと思います。なにせログアウトの件も、家庭や学校と向き合う件も、向き合うことで本当に解決できるか全くわからないからです。ぬか喜びになるかもしれませんし、持った状況が悪化する可能性だってあるのですから。
ともかくそんなことがあって、まあそのほかにも実際に魔物との遭遇の際に命を助けられたりとかで、レンの時のようなべったり依存系ではないしても、新しい依存先みたいな感じで、アマノにベタベタするようになるんですよね。まあなかなか勘違いされやすい行動をとると言うかなんと言うか。
アクセサリをお揃いにするとか、ベッタリとくっつくとか、漫画を描くアマノを手伝ったりとか、そういうやつです。
でもそれはあくまでも強く依存していたレンの代わりとしてアマノを見ていたんだと思います。だから9巻で、ここぞという時にレンを庇って、最大のチャンスを逃すことになっちゃったのかなと。ダメージを受けて倒れるレンと相対するアマノに、立ちはだかってしまったのかなと思うのです。
だってこのシーン、アマノだってレンを殺そうとしたんじゃないと思うんですよ。少しの間その足を止めていて、その間にアキラがマーデルの核を攻撃してしまえばそれでよかったわけですから。で、結局アキラはレンによってNPCにされてしまうという。
アキラはレンを、そしてレンを中心としたコミュニティを見捨てられなかった。例えみんながNPCになってしまったとはいえ、それを認められなかった、割り切ることができなかったという、そんな話です。アキラは、そのへんがきっと、アマノやハガやマユとは違かったんでしょうね。別に良いとか悪いとかの話ではなくて、そういうキャラなんだなって。
この世界は不完全すぎるのキャラたちって、みんなどこかちょっと割り切ってるというか、やっぱり少し大人というか、そういうところあったと思います。
マユは同じレンたちの仲間ではありましたけれど、彼女はやはり明確に、危機からの脱出という目的がありました。まあハガに惚れているからハガに倣っているという感じもあったかもしれませんけれど。ただそれでも昔のコミュニティに依存する感じではありません。
アカネもレンたちの仲間でしたけれど、彼女(彼?)は、自分の立ち位置というか、欲望というか、そういうのは決して崩しませんでした。そんな中、自分の依存する対象、コミュニティの狭間で立ち位置を迷う、そんなキャラがいたことが、この物語をさらに熱くさせてたんだなあと思う、そんな今日この頃なのです。
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