「この世界は不完全すぎる」8巻が発売されました。デバッガーとしてプレイしたVRゲームからログアウトできなくなり、2年近くもゲーム内で冒険しているハガと、NPCでありながらゲームのメタAIの人格が乗り移っているニコラの物語です。
基本同じデバッガーたちとの戦いがメインで描かれていますが、ログアウトできないデバッガーたちの様々な苦悩や人間臭さがあふれていて、まあ読んでいてイライラしたり、醜さが際立って目をそむけたくなるようなこともなくもないですが、なかなか味のある物語です。
今回はそんな「この世界は不完全すぎる」の8巻のあらすじネタバレと考察になります。
7巻までのあらすじ
ログアウトできず、仲間は皆行方不明や行動不能となり、そもそも、もはや仲間が生きてすらいないかもしれない可能性すらある中で、ひたすら地道にデバッグ作業をすることで正気を保っていたハガ。
デバッグをしながらの旅のさなか、NPCの村人ニコラや他社デバッガーのアマノ、アキラとともに訪れたサイ公国の公都で、罠に嵌められ、地下千階まであるという巨大ダンジョンの最奥に落とされてしまいます。
ニコラのみを地上に残して。
そしてハガたちがなんとかダンジョンをクリアした時には、既に一年という時が過ぎ去っていました。その間、1人地上に残されたニコラは、これまでの姿からは想像できないほどに成長していたのです。
8巻のあらすじネタバレ
ここからは「この世界は不完全すぎる」最新刊8巻のあらすじを紹介します。ハガたちが地下千階のダンジョン最奥にワープさせられ、地道にダンジョンをクリアしていた頃、残られたニコラはたった1人で戦っていました。8巻はそんな回想から始まります。
ネタバレ含みますのでご容赦ください。
ニコラのアサシン修業
ハガたちがダンジョンに飛ばされたころ、1人残されたニコラは、紆余曲折を経てアサシンギルドの暗殺者候補生となります。ハガたちがいなくなった後で神殿から追い出されて、行き倒れたところをアサシンギルドに拾われただけなのですが。
二コラを含め8人の候補生は、ほかの候補生を殺してでものし上がることで、一人前の暗殺者になることを求められます。
狭い小部屋で殺し合いをさせられる
まずはじめに、2人1組で狭い部屋に閉じ込められて、殺し合いをさせられます。小さな小窓からニ振りの短剣を投げ込まれて、
「ひとりになれば出してやる」
とだけ試験官に告げられたのです。
ニコラの相手の少女は殺る気満々でしたが、ニコラはまずはじめに、ハガから教わったデバッグ作業を始めます。壁に顔を押しつけながら何周もしたり、いろんな角度から壁にぶつかってみたりします。
果たして、ニコラは壁の見えない突起を見つけます。それ足をかけていけば、容易に数メートル先の出窓まで登れてしまうくらいの、いわゆるバグです。
そしてかなり高い位置にある出窓に身を潜めることで、小窓から中を除く試験官に「ひとりになった」と誤認させたのです。
「きっとハガさんならこう考える‥‥”ひとりになったら”は”片方が死んだら”とは限らない」
これまでずっとハガが教えてきたことをしっかりと身につけているニコラなのでした。
スリの訓練
続いての課題はスリの体得です。自分とスリの対象それぞれに鈴をつけられ、鈴の音が鳴らないようにスリを行わなければなりません。対象は、吊るされた敵兵の捕虜です。
ニコラと4人は半年間、ずっとその課題をクリアすることができませんでしたが、そこで4人のうちの1人が物騒なことを言い出します。先に殺してからスリを行えばよい、と。スリを行う時にどうしても捕虜が動いてしまいますが、先に殺してしまえば、少なくとも捕虜の方の鈴が鳴ることはなくなります。
みんなが賛成する中、ニコラだけはその提案に待ったをかけました。そして吊るされた捕虜たちに近づき、なにやら耳打ちをしたのです。
実はこの半年間、ニコラは捕虜たちとたくさんの会話をしてきました。他の4人が捕虜たちを「スリの対象」「死んで当然の敵国の兵士」としか見ていない中、ニコラだけは彼らを「人」として見ていたのです。そして会話をしている中で、何かしら相談をしたり話し合ったりする関係性が両者の間に生まれていました。
ニコラの提案により、捕虜たちには自ら魔法によって石化します。これによって衣服についている鈴もまた石化したため、候補生たちは安全にスリを行うことに成功したのです。
バーサーカーニコラ
自ら石化してスリの試験に協力してもらう代わりに、縄を解いて逃亡を助ける約束を捕虜たちとしていたニコラ。果たしてニコラが縄を解くと、当然ですが試験官に見つかってしまいます。
そして試験官から緊急で、ニコラ以外の4人に課題が課せられます。ニコラと捕虜たちを殺害せよ、と。
経験豊富な戦士であった捕虜たちは善戦しますが、如何せんずっと吊るされていたことで非常に体力が落ちていて、どうにも暗殺者候補生たちにはかないそうもありません。そんな中ニコラは、建物の高所で文字通り高みの見物をしていた試験官から武器を盗みます。
「そのダガー特注品ではありますが、あなた方にとっては無価値なんです。特にニコラさんあなたにはね」
試験官はニッコリとしながら話します。
「そのダガー、潜在能力(レベル)依存なんですよ」
つまり、レベルの低いニコラには扱えるものではない、と言うのです。ですがニコラはかつて、同じようにレベル依存の道具を使用し、尋常ではない威力をたたき出していました。ニコラの潜在能力…レベルは尋常ではないのです。
盗んだダガーを手に取ってから、ニコラは明らかに変わります。顔を真っ赤にして、口や鼻から「ふしゅしゅ」という変な音を立てて、不思議な動きをしながらも試験官と暗殺者候補生たちに襲い掛かります。というか一瞬で候補生1人を戦闘不能にし、建物をバラバラにし、さらには試験官をもボコボコにしてしまいます。完全にニコラ無双です。
ニコラの体力が尽きてしまい、またアサシンギルドの首領が駆けつけなければきっともっと被害は拡大していたでしょうね。
デバッグストーンを探しに
ニコラのアサシン修業の回想が終了し、仲間たちは眠りにつきます。なにせ地下千階のダンジョンを走破したばかりですから、相当疲れも溜まっていたことでしょう。
そんな中、ハガはひとりひベッドから起き上がります。ダンジョンに閉じ込められた際に回収されたデバッグストーン=デバッガー専用のコンソールパネルみたいなものですかね、を取りに、再び神殿に向かうためです。
途中ニコラと合流して、ニコラの案内で礼拝堂へ。そこで2人が見たものは、ハガのデバッグストーンを操作して、ワープのように姿を消した不思議な男の姿でした。
この世界は不完全すぎる8巻の見どころ
この世界は不完全すぎる8巻は完全にニコラの巻といった感じでした。内容の7割はニコラのアサシン修業の回想でしたし、残り3割もニコラが大活躍してました。
そんなこの世界は不完全すぎる8巻の見どころを紹介します。
ハガの教えをしっかりと守るニコラ
アサシン修業の時には、ハガの教えをしっかりと守るニコラが印象的でした。これから殺し合いをするという時になっても、まずはバグを探そうとしていましたし、宝箱を叩いて、溜まったエネルギーです大ジャンプするという手法も、かつてハガが使ったやり方です。
「きっとハガさんならこう考える‥‥”ひとりになったら”は”片方が死んだら”とは限らない」
ニコラのこのセリフから、ニコラがどれだけハガを信頼しているかがわかりますよね。
問題があった時に、「どうしてこうなのか?」「見方を変えて解決できないか」を常に考えているあたり、ニコラは、まさしくハガの一番弟子と名乗るにふさわしい人物になっていたのです。
ニコラの潜在能力がヤバすぎる!
たまに出てくる潜在能力依存の武具は、ピンチを切り抜けるキーアイテムであるとともに、ニコラの特異性を目立たせる重要なツールでもあります。おそらく、メタAIであるテスラが中に入っているからなのでしょうが、それにしてもその常軌を逸した強さというか、道具の力の解放具合は異常すぎます。
前回はドクロの空気砲のような魔道具でした。ハガが使った時は壁に握りこぶし程度の穴を開ける程度でしたが(それでも強い方らしいですが)、ニコラが使うと、壁に人ひとり通れるくらいの大穴を開けてしまうほどの威力を見せました。
そして今回のダガーもまた想像を絶する力を見せ、その所有者ですら驚愕していました。このニコラの特性は、もしかしたら今後も生かされてくるかもしれませんね。
急成長はアイテムのおかげ?
というか、今回この世界は不完全すぎる8巻では、ニコラのアサシン修業の様子の一部が示されていましたが、具体的にどのようにして今の強さを手に入れたのかは未だ謎に包まれています。
少なくとも修業を始めて最初の6ヶ月間は、それなりには成長していましたが、それでもまだまだ素人レベルでしかありませんでした。それが残り6ヶ月を経て、ニコラはあり得ないほどの急成長を遂げていました。
建物の屋根を跳んで移動するほどの跳躍力、一瞬で5人の敵の手首を切り落とすほどの素早さと攻撃力、飛んでくる瓦礫を蹴って敵へ突っ込む瞬発力、どれをとっても完全にプロの動きです。これまで素人に毛の生えたレベルだったのが、いきなりここまで成長するものでしょうか。
もちろん、ニコラを育ててくれたという、アサシンギルドの首領の教え方がとても良かった可能性は十分あります。ですが通常、ただの村人であるNPCが村人以外にはなれないとされているようですので、それで劇的に強くなるのはあり得ないでしょう。
だとすれば、他の要素があるはずです。ではそれは何か。それが、潜在能力(レベル)依存のアイテムというわけです。
これまで2度、潜在能力(レベル)依存のアイテムが登場しましたが、2度あるものは3度あると言います。きっと他にも潜在能力(レベル)依存のアイテムがあるのでしょう。
例えば、以前のニコラは装備していないが、今は装備しているもの‥‥マフラー?ネックウォーマー?とか、股掛けとか、あるいは靴やベルトという可能性もあります。
いずれにしても、ニコラの不自然な急成長の理由として挙げるには、十分すぎる理由になるかと思います。
謎の男の正体はゲームマスターか?
この世界は不完全すぎる8巻のラストで、正体不明の男がハガのデバッグストーンを操作して、どこかにテレポートしたような描写がありました。
デバッグストーンは本来持ち主にしか使えないものです。つまり誰であろうとも、ハガのデバッグストーンを使うことはできないはずなのです。もしそれを使える人間がいるとしたら、それはおそらく神に等しい存在でしょう。この世界はあくまでも仮想世界のゲームの世界な訳ですから、もし、神のような存在がいるのなら、それはもうゲームの開発者以外いないのではないでしょうか。
実際にログアウトできない状況であっても、バグの報告をすればバグは修正されていきます。つまりこのゲームは、決して制御不能な状況ではないということになります。ゲーム開発者がゲームに入り込んできても、まったくおかしくはないのです。
果たして何が厄介なのか?
ところでこの謎の男。消える寸前に「これはまた厄介だな」と呟いていました。何が厄介なのでしょうか。
仮に男がゲームの開発者なのだとすると、やはり1番の厄介ごとは、プレイヤーがログアウトできないということでしょう。ただログアウトできない現象は既に2年以上続いているわけですから、今更になってそれが「厄介だな」程度で終わるわけがありません。
では他にはどんな厄介事があるでしょうか?
ちらっとハガとニコラの方を見ていましたので、もしかしたら、ニコラの中にメタAIが入っていることが「厄介」なのかもしれません。というか、「この世界は不完全すぎる」のメタAIたちは皆だいぶ自由すぎます。ともすれば仕事放棄ともとれる行動がたくさん見受けられるのです。ニコラの中にいるメタAIステラが自分の国を放り出して好き勝手やっているのを見て、「厄介」だと感じるのも、決して否定できないかと思います。
ログアウトできない状況はゲーム開発者の手の内?
さて、今回登場した謎の男がゲーム開発者だったとしたら、ゲーム開発者は自由にゲームの中に来ることができて、しかも自由にログアウトできる状態であると言えます。逆に言うと、多数のデバッガーたちがログアウトできない状態と言うのも、決して想定外の状況ではないとも考えられます。
ではいったいなぜデバッガーはログアウトできないのでしょうか。
デバッガーは本当にログアウトできない
まず考えられるのは、やはりデバッガーはゲームのログアウトがシステム上できなくなっているということです。デバッガーはログアウトできないけれど、ゲーム開発者はログインログアウトできる状況。デバッガーはマジのマジでゲームに閉じ込められているという状況です。
これは今更考察するまでもなく、これまでずっと語られていた状況でもありますね。ただこれだと、なぜゲーム開発者があそこまで軽いのか、ちょっと説明がつきません。
ゲーム内時間とっても短い
ゲーム内の時間が、現実の時間に比べて大幅に短くなっている可能性です。例えばゲーム内の1日が、現実ではまだ1分程度だとか。だとすると、ゲーム内の2年間は現実ではだいたい12時間程度ということになります。まだ半日しか経っていません。まるで精神と時の部屋ですが、もしこの説が正しければ、ゲーム開発者は、むしろログアウトできない状況で人間がどういう行動を取るかなどのデータを取っている可能性もありますね。
デバッガーの疑似人格が構成されている
デバッガーがログインした時点で疑似の人格が形成され、デバッガーがログアウトしてもその人格が登場キャラクターとして残っている可能性です。これだとデバッガーの本体はすでにログアウトして、もはやデバッグの作業も終わり、すでに商品化しているという可能性すら出てきますね。そして疑似人格として形成されたデバッガーというキャラだけがゲームに取り残されているのです。
これはちょっと救えないですね。ログアウトは当然できないですし、その事実を知ってしまったら自分と言うアイデンティティも失うことになってしまいます。
この世界は不完全すぎる8巻のあらすじネタバレ|ニコラの急成長とログアウトの秘密のまとめ
今回は主にニコラの成長についてと、ハガのデバッグストーンをいじっていた新キャラ登場によって導かれる、デバッガーの現状について考察してみました。
まあ新キャラが本当にゲーム開発者かどうかも分かりませんし(もしかしたらハガの上司とかの可能性も?)、あくまでも1つの可能性ということですが。ただ今後さらに物語が動いていくことに違いはありません。
果たしてあの男は何者なのか。
これからも期待して待っていたいと思います。
コメント
デバッガーの擬似人格が形成されてるのかもと言う仮説、ものすごく面白いです!
AIは心を持ち得るか?というSFの伝統的な問い、そしてAIの深層学習など、魅力的なテーマにも繋がりそうな説で鳥肌が立ちました。
そうなると、アマノくん加入の頃に説明された「NPCは一期一会、シナリオは自動生成」と言うシステムも不穏なフラグに思えてきます。もし本編のシナリオが、デバッガー達の擬似人格から生成されたシナリオだとしたら……?
個人的にはこの仮説を推していきたい気持ちです!
また、ニコラがレベル依存武器で異常に強くなる理由はドクロのシーンで説明されていますよ。武器が攻撃力を算出するのに必要な値を持って無いせいでバグってる、と言う話だったと思います。
おそらくナカムラ氏に改造されたゲーデルの異常な強さと似た現象じゃないでしょうか。
よって、今のニコラの強さが装備による物とは考えにくいように思います。
が、装備の大幅変更という着眼点はとても興味深いと言うか、ハッとさせられました。
ニコラにバトル用のパラメータが存在しないなら、そもそも普通の戦闘用の装備を着ただけでバグが出てもおかしくありません。
でも今はすっかりアサシン服、初期の可愛い服はどこへやら(寂)、薬を飲んでバフを付ける描写まであります。
「バフが付く」と言うことは……今まで持っていなかった、攻撃力などのバトル用の値を持っている……?
つまり、今のニコラはバトル可能なキャラクターに作り替えられているとは考えられないでしょうか?
ゲーデルのような荒い仕様ではなく、デバッガー達と同じように戦い、アイテムも使えるニコラ……もしそうなら、首領のドゥカ様、ますます怪しいです。
フツーに楽しく読んでいたお気に入りの漫画でしたが、こちらの記事をきっかけに、もう一歩踏み込んでディープに楽しむ事が出来ました。
記事を拝読していなければ、この作品の魅力にきちんと気づけぬまま見落としていたことでしょう。
素晴らしい考察と記事の執筆、ありがとうございました!
そしてめちゃくちゃ長くなってしまってすみません、失礼いたしました!