悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民のために尽くします。3巻の感想です。今回は表紙にもある通り、宰相のジルベールがメインのお話です。
プライドに対して当たりがキツイ…というよりも、どこか憎んですらいるような描写も見られる、超優秀な宰相、ジルベール。3巻はそんなジルベールの、ゲーム内でのエピソードから始まります。
ステイルやアーサーとは、少し背景が違うジルベール
これまで登場した攻略対象は2人、ステイルとアーサーです。ステイルもアーサーも、プライドには並々ならぬ憎しみを抱いていました。
ステイルは母親を、アーサーは父親を、それぞれプライドによって(間接的ではありますが)殺されているからです。
けれどもジルベールの場合、愛する妻を亡くすのは病気のためです。その病気を治す手がかりを得るためにプライドに5年間尽くし、結局その努力は実らなかった、というものです。しかもその5年間というのは、プライドをより一層増長させ、最強外道へと押し上げた5年間でもあります。
だからゲームに登場するジルベールも、プライドに対して憎しみを抱くというよりは、プライドの言いなりになってもマリアンヌを救えなかった絶望と、自分の働きによって結果民を苦しめたことに対する深い後悔が根底にありました。
そういえば、ゲームでは隠しキャラ的な位置づけだったんでしたっけ?
ともかく、これまでとはちょっと毛色が違うというところが、このジルベールのエピソードの特色なんですよね。
もう1度やり直す機会を得たジルベール
やり直す、という簡単な言葉で片づけてしまっていいものかどうか、ちょっと悩んでしまいますが。
ジルベールは、明らかに罪を犯しました。愛するマリアンヌのために、王家を売ることさえ考えたという罪です。結果的にそこまで行き過ぎることはなかったものの、そういうことを考えた、検討したという時点で、ジルベールの罪は確定的です。まあ控えめに言って死罪です。
そしてその罪を告白したジルベールに対して、プライドがこう言うのです。
「全てを打ち明けない覚悟はありますか?」
プライドはジルベールに、未来永劫、国のために働けという言うわけです。
自分の罪を誰かに告白できないというのは、ある意味つらいものです。また裁かれないというのも、ずっと心にしこりを残し続けるでしょう(欧米などでは神父さんに罪を告白する、という仕組みがありますよね。それは罪を犯した人に対する「救いの制度」なんだと思います)。
ジルベールの救いとは
プライドがこうした決断をしたのは、きっとゲームでのジルベールを知っているからでしょう。ゲーム内のジルベールは、自分の行いが国を、そしてその民を苦しめたことに対して、とても悔いていました。だから、ゲーム内のジルベールが一番救われる方法は、自分の手で国を、そしてその民を幸せに導くことだったわけです。
もちろん、今のジルベールはそれを知る由もありません。もはや別世界というか、並行世界というか、IFみたいなものですからね。
ただ彼の魂の奥底には、ゲーム内での記憶が残っているように思われます。ジルベールに限らず、ステイルもアーサーも、プライドが極悪非道な女王であった世界線の夢をよく見ているのですから。やり直しの世界なのか何なのかはちょっとわかりませんが(そしてそのあたり、今後仕組みが語られるかどうかもわかりません)。
ジルベールはここで、国と民のために尽くす機会をもらうことになります。罪を背負いながらも、自分が生きるべき本当の道へ、歩を進めるべく、背中を押してもらえた形になります。
ゲーム内でのジルベールを知っているからこそ、このプライドの言葉が何よりも贖罪であり、そして救いであることを、強く感じることができるわけですね。
まあ何が言いたいかというと、ジルベール、良かったね!ということです。
漫画版の進行について
漫画の進行が、少し性急かなと感じないでもありません。けれどもそれは、小説のほうを読んでいるからこその感想かなとも思います。
例えばこのジルベールのプライドに対する想いについて。
国を裏切っておきながら、プライドに宰相として国に尽くす機会を与えられ、その感謝というか、敬愛というか、そういった感情がジルベールの中にぐるぐると、まるで竜巻のように沸き起こります。
そして、小説ではその描写がとにかくすごいのです。
自分にこれだけ寛大な判断を下してくれたプライドを、今までずっと貶めていた後悔、羞恥。自分にやり直す機会を与えてくれた、プライドの器の大きさに対する驚愕と感激、そしてそこから湧き上がる強い強い決意。もう本当に、読んでいて、眩しくて目が開けられないくらいの感情の渦に飲み込まれるわけです。
それが、漫画版ではちょっと物足りなさを感じたかな、という具合です。
少なくとも、ジルベールの感情の渦に目を開けていられない、というほどではなかったと思います。
ただし、それはある意味仕方ないのかなと思わないでもありません。なにせ、もし小説の通りにジルベールの感情の嵐を描こうとしたら、漫画だとまるまる1話使ってしまいそうなくらいの分量です(ちょっと言いすぎかもしれませんが、それくらいの熱量なんです)。
ただですね、ステイルのときは結構丁寧にステイルの心情が描写されていたものですから、それに比べるとちょっとあっさりしていたかな、と思わないでもないのです。
そもそも前提が違うので……
まあ、ステイルと比べて少し物足りなさを感じる、というのもまた違うかもしれません。なにせ私はこの物語、漫画版のステイル編(と言っていいものかわかりませんが)を見て、小説を読み始めたのです。つまり、ステイル編を見たときは本当にまっさらだったわけなんですね。
それが、漫画版のジルベール編は、小説を読んでから見ました。なので小説のイメージがどうしても頭に残っていて、物足りなさを感じてしまうだけなのかもしれません。
最強外道ラスボス女王は民のために尽くします。3巻感想|ついつい小説と比べてしまってのまとめ
あとは、ステイルがいつもにもましてキラキラしい巻でもありました。特にプライドに対して何かをしてあげたいと思うステイル、何かをしてあげてほほ笑むステイル、そしてプライドにぎゅーっとされて赤くなるステイル(これは漫画の作者さん、ステイル推しだな)など。結構な破壊力があったと思います。
ともかく。小説版ではジルベールのみならず、ステイルのプライドに対する姉弟を超えた感情や、アーサーの胸焼けしそうなプライドへのあこがれの気持ちがぎっしりと詰まっています。それ以外にも、アーサーの父であり騎士団長でもあるロデリックの息子に対する気持ちなんかも、ものすごい熱量なんです。もしまだ読んだことがないという人は、ぜひとも読んでみてはいかがでしょうか。
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