前巻、スピリットサークル4巻までのあらすじ
千年以上も未来の過去生、ラファルを体験した風太。
そこで見たものは、緩やかに滅びに向かっている人類の未来のために苦悩した日々でした。
事故や病気などで肉体を損傷した者の脳を保護し、電気信号で夢を見せ生かしている施設、亜生者管理センター…通称「寝台」。
この技術により、亜生者の数は100億人を超え、それに比例して人類は5億人と確実に減少していました。
寝台の所長であるラファルは、この寝台が生者の魂を捉えているため、新たに人が生まれない、生まれ変われないのではないかと考えます。
そしてとうとう寝台の亜生者の解放を、1億人の亜生者生命維持システムをオフにするのでした。
しかしその後すぐに、テロリストのブラックホール兵器の暴走により、世界は滅んでしまいます。
滅びの瞬間を目にしたところで、風太は目を覚ますのでした。
スピリットサークル5巻のあらすじ
過去生を見終わった後、夜の公園で鉱子は風太に事情の説明を求めます。
鉱子の過去生、ラピスはテロリストのブラックホール兵器のことを知りません。
なので最後自分がどうやって死んだのか、皆目見当もつかなかったからです。
風太の話を聞き、鉱子は混乱しますが、逆に風太は鉱子のおかげで別なことに気がつきます。
自分たちの娘であるカロルの研究により、平行宇宙が実在する、歴史は分岐するということ。
「未来も過去も決まっていないって」
「大丈夫、絶望するのはまだ早い」
世界の結末がこれだけではない可能性に、前向きに捉えることができたのでした。
謎の宇宙人との邂逅!第七章「風子」
次の風太が見た過去生は、ある意味非常に興味深いものでした。
風太が「平行宇宙が実在する」と言ったことをまるで証明するかのような過去生です。
風太の今回の過去生は女性です。
それどころか鉱子は男性に、その他2人の周辺の友人たちが軒並み性別が逆になっているのです。
ちょうど中学の夏休みの時期、通称不二屋根と言われる巨大空中静止体を調べに鉱子の過去生石神井やそのほか友人たちと霊峰不二を登っているのでした。
その中で、風子は他の友人たちより少し遅れて、石神井とともに山を登っていました。
そこで2人は2つの奇妙なものに出会います。
1つは、フラファル編でラファルとラピスの子カロルが作ったと思われるネコロボです。
しかも、ラファルとラピスが撃ち合いをした際に銃を当ててしまった部分が補修されています。
ネコロボは「ジー…チキチキチキチキ…」と機械音を立てて、そのままふっと消えてしまします。
またもう1つは、宇宙人のような出で立ちの2人(?)です。
宇宙人?は2人にはわからない言葉でひたすら喋っており全く意味がわからないのですが、最後に風子に虫取り網をプレゼントし、消えてしまいます。
風太が過去生としてはっきりと見えたところはせいぜいこの一場面だけで、あとはほとんどモノローグで過去生は終了します。
不二屋根の研究をしたく風子はその後学者になりましたが、風子の他に誰も不二屋根には興味を示さなかったために一度もまともな調査はできませんでした。
「…学者になんかならずに山の絵でも描いて過ごせば良かった…」と晩年少しだけ後悔して、その平穏な一生を終えるのでした。
死霊王フルトゥナの過去が明らかに!第一章「フルトゥナ」
フルトゥナは幼い頃から霊学者でした。
もともと高名な先生のもと修行を積んでいたのですが、禁忌とされる人口精霊の構築に手を出したことで破門に。
人口精霊のルンと、その後弟子となったイースト、そしてイーストが野犬に襲われているところを助けたまだ幼いコーコとともに、4人で幸せに暮らしていたのでした。
けれどもそんな幸せな時も長くは続きませんでした。
イーストが不治の病いに侵されたのです。
フルトゥナはイーストを治すために研究に没頭し、ついにその研究を完成させます。
完全無属性の万能霊素、次元干渉環、スピリットサークル。
それは多くの魔素を集め、イーストの霊体を病いに侵された肉体から分離させるものでした。
そして、多くの魔素を集めるために霊力炉から魔素を集め、その結果霊力炉は爆発、2万人以上の死者を出したのです。
イーストを助けるために、2万人以上の命を軽く扱ったフルトゥナ。
コーコにはそれが理解できませんでした。
イーストはコーコにとって父親同然です。
けれどもそのために全く罪のない人々の命をなんとも思わずに捨ててしまえるフルトゥナに、コーコは共感することができませんでした。
そしてコーコは、フルトゥナと袂を別つことになります。
イーストを連れて、コーコはフルトゥナのもとを去るのです。
コーコと別れてからフルトゥナは、スピリットサークルを使って墓場から死霊兵を作り、その死霊兵でもって人口5万人強の西都を制圧してしまいます。
若者も子どもも年寄りも、ほぼ全ての人を死霊兵に変えてしまい、その西都の図書館を拠点に悠々自適に過ごすのでした。
幾年もの年月が流れ、再びコーコはフルトゥナの前に現れます。
故郷の霊力炉を爆破し、そして西都を支配し多くの命を奪ったフルトゥナを倒すために。
スピリットサークル5巻の見どころ
世界は滅亡などしていなかった!
前回のラファル編では周囲が崩壊するところで目が覚めた…すなわち崩壊と同時にラファルもラピスも死んでしまっていたため、その後の世界がどうなったかは分からないままでした。
ただラファルがテロリストのアッシュから聞いていた話では、それはブラックホール兵器によるものと容易に推測が立ち、その破壊力が地球をも滅ぼす威力であることを、風太は知っていたのです。
けれども、つぎの風子編において、地球が滅んでないことを示す重要な手がかりを見ることができます。
当然ながら、それを見た風子や石神井にはそれが何なのか分かるはずもありません。
けれどもラファルとラピスの記憶を持つ風太と鉱子はひと目でそれが分かります。
なにせ、自分たちの子ども、カロルが作ったネコロボなのですから!
しかもそのネコロボの頭部には修理した跡が。
それはまさしく、崩壊直前ラファルによってつけられた傷なのです。
つまり、地球が滅んだと思われる崩壊のあとに、ネコロボは誰かに回収・修理されたことになるのです。
自作のロボであるネコロボを修理できる人など、製作者本人、カロル以外にはありえません。
しかもカロルの研究テーマはタイムスリップ。
ネコロボがこの時代にいて、そしてふっと消える理由が容易に説明できるのです。
コマ数で言えばほんの2〜3コマですが、風太や鉱子、そしてこれまで読んでいた読者にとってはこれ以上嬉しいことはないでしょう!
風太の決死の告白!鉱子の気持ちは?
ラファルの過去生を見終わったあと、風太は鉱子に告白をします。
けれども、鉱子の答えは、
「あんたと付き合うなんて、ありえない」
「やめてよね」
というものでした。
頭を抱えて絶望する風太。
ただ鉱子の側から見ると決してそれが言葉通りでないことがわかります。
鉱子はすでに、風太がとてもいい人で、フルトゥナとして憎むことが難しいことも、自分にとっても無視できない存在であることを自覚しています。
転校初日に階段から突き落として怪我をさせた時も、結局風太はそのことを誰にも言いませんでしたし、それどころか突き落とした当人である鉱子を前にして「怪我なんかしていない」だから気にすることはないと言いました。
過去生で関わった人たちが自分の知らないところで不幸なことになっていたことを知り落ち込む風太の様は、コーコの知っているフルトゥナの性格とは全く違うものでした。
また方太郎と岩菜の過去生の舞台が地元であることに気づいたり、ラファルとラピスの過去生で絶望的な終わり方をしたにも関わらず、その先に希望があることを見出したのも、鉱子ではなく風太でした。
そんな風太に、鉱子も知らずに惹かれていたのだと思います。
いや、惹かれていたことに気づいていながら、自分の中のコーコの影響からどうしても風太=フルトゥナには心を許せないでいる、そんな様子なのだと思います。
「理解で済んだら、感情はいらないのよ…!」とは風太と出会ったばかりの鉱子の台詞ですが、それだけ風太のことが嫌いになれなくても、自分の中にいるコーコにとってはやはり風太はフルトゥナなのでしょう。
最終的に、鉱子はコーコとして、風太の中のフルトゥナと対峙することを決心するのです。
この戦いの行方がどうなるのかは次の最終巻に持ち越しとなりますが、その時には「鉱子」の正直な想いが聞けるといいと思います。
フルトゥナは「悪」なのか?
これまで鉱子=コーコの話から、フルトゥナが相当な悪であることが作中では繰り返し伝えられてきました。
ただイーストは、フルトゥナが何をやったのか、鉱子から聞いてはいけない。
それは鉱子の答えだから。
自ら見て、知るんだ…と言っています。
それは言い換えれば、別の面からいえばそれが決して悪とはいえないということを示唆しているように思えます。
また風太が直接イーストに何をやったか聞いた際には、
「…救おうとしただけだよ…私を」
と言っていました。
そして実際に今回、フルトゥナの行動を見て、皆さんはどう思ったでしょうか。
確かにフルトゥナが行ったことといえば、魔力炉を爆破して2万人もの命を奪っていますが、それはイーストを不治の病から救うための行動でした。
また西都制圧については、そもそも兵隊に見つかるまではこっそりと図書館に通い慎ましく過ごしていましたが、図書館に入り浸り、そこを拠点にして過ごすには「制圧した方が手っ取り早いから」という、たったそれだけの理由で、西都5万人強の命を奪いました。
もちろん数多くの罪もない人の命を奪ったことについて、それは間違いなく犯してはいけない領域で、人の世でいう「非道」の極みともいえるでしょう。
けれども驚くべきことに、その「非道」についてフルトゥナは無自覚なのです。
コーコからの「フルトゥナにとって…命って何?」という問いに対して、フルトゥナはこう答えます。
「…肉体活動の燃料?」
「命に違いはないが、イーストと他の連中の「存在の価値」は違う」
「おれにとっては という主観的な基準だが…」
それはイースト1人の命と爆破した魔力炉周辺の2万人の命を天秤にかけて、イースト1人の命を選択した、ということになります。
逆にいうと、2万人の命を捨ててでも、イーストを救いたかった、というようにもとれるのです。
またコーコについても、ちょうど街を出るところで魔力炉爆破犯であることを暴露され、つまり裏切られたわけですが、その際にイーストがコーコについていくか、フルトゥナのもとに留まるか、若干迷うシーンがあります。
しかしその時フルトゥナのイーストへのアイコンタクトは、「コーコを頼む」と言っているように見えるのです。
コーコやイーストと別れた時のフルトゥナの様子はひどく落ち込んでいるように見えます。
そもそも、フルトゥナは幼い頃から孤独でした。
なまじ頭が良かっただけに、同年齢の子どもたちでは話し相手にならなかったと語られています。
そんな中、フルトゥナを気味悪がらずに「霊学を教えて欲しい」と家に住み着いたイースト。
そしてイーストよりも遥かに霊学の覚えが早く、フルトゥナにとって一番話が通じる相手だったコーコ。
2人はフルトゥナにとってかけがえのない存在だったのです。
そしてフルトゥナはそんな家族が大事で、その他についてはあくまでもその次なだけ。
誰にだって、人の価値は主観によって大きく変わり、それによって扱いもまた変わります。
ただし、フルトゥナに限っていえば、「その次」の人たちの価値は本当にどうでも良く、死んでしまおうと無関心であっただけなのです。
事実西都を制圧した後は、特にそこを拠点に世界征服をしようだとかは一切なく、ただただ自分の知識欲を満たすためだけの静かな生活でした。
かなり極端ではありますが、そんな自分の主観を大切にするキャラクターには、なんとなくですが、共感せずにはいられないのです。
スピリットサークル5巻のあらすじと見どころのまとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はやっと物語の核であるフルトゥナ編が始まりました。
ですがフルトゥナの過去生だけではなく、風子の過去生での宇宙人の登場や、風太の鉱子への告白など、今まで以上に内容も厚く、また最終巻へ向けての伏線も各所に散りばめられていました。
フルトゥナの人間性についてはいろいろと思うところはありますが、ただそこまでの極悪人という感じもしませんでした。
ちょうどコーコと再会するところでスピリットサークル5巻は終わっていますが、今後もっと、コーコの憎しみをさらに買うような何かがありそうです。
それと個人的には上記のほかに、風太とウミの一コマがお気に入りです。
風太が鉱子に告白して、しかも風太を好きなノノがそれを目撃してしまって、それを面白がりつつも風太のことを心配しているよき友人です。
スピリットサークル2巻のスフィンクスじいさんことフロウの章で、フロウの妻リハネラとして登場。
良き理解者ではあったものの、お互いの心の内をまったく話せないまま死別することになってしまいます。
けれども今の風太とウミは、お互い正直に心の内を話せるいい友人関係であるようです。
ここでも、過去生からの関係性が修復されているのかもしれません。
それにしても、作中では明言されていないですがウミの好きな人、やっぱりテツなんでしょうかね。
個人的に好きなキャラなのでどうしても気になって仕方ありません。
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