青春

感想『ふたりバス』の繊細な距離感にときめく

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こんにちは、ゆっちです。

ここ最近「ふたりバス」という漫画に胸がキュンキュンさせられるとわたしの中で話題です。


ふたりバス(1) (少年サンデーコミックス)

中学校で別れた2人が失った距離感を取り戻すお話

人口3000人のど田舎で、ただ同じバスに揺られる中学2年生の男女の絶妙な距離感と心の機微に焦点を当てた名作だと思います。

通常ラブコメといえば、1話目で刺激的な出会いをしたとか、印象的なイベントがあったとかで物語が始まりますけど、この作品はそういうイベントが一切ありません。

主人公の桧木春平とヒロインの高屋川あんは、保育園、小学校からの幼なじみなんですけど、中学校に上がるタイミングで距離ができてしまい、同じバスに乗りながらも1年間ほぼまったく口を聞いていませんでした。ほかの同級生はみんな同じ公立の中学校に進学したのにあんが1人だけ、田舎を出て私立の中学校に進学してしまったからです。春平としては、きっと自分とは違う存在なんだと遠く感じてしまったというのもあると思います。またあんとしても、ずっとみんな一緒に過ごしていたのに1人だけ都会の私立中学を選んだということで、変な負い目を感じてしまうところ後あったのだと思います。

おかげで、バスに乗っている40分のうちそのほぼ半分、2人きりであるにもかかわらず、何となく話しづらいと思いながら1年もの時を過ごしていたんですよね。

この疎遠になってしまった気まづさの中、とあるほんの些細な、本当に些細なきっかけから言葉を交わすようになるという物語の紡ぎ方っていうのが、なんかすごくグッとくるのです。ラブコメと言いつつ、まだまだ恋とも言えないようなあわい感情、なんていうのかな、懐かしさというか、気まづかったのがちょっとだけ和らいでほっとするというか、そんな感情の揺れ方がすごく繊細に描かれてて、読んでいて何とも温かい気持ちになれるというか、そんなお話なのです。

物語の大半は春平の視点で描かれるんですけど、あんちゃんは向こうの学校でどんな生活を送ってるんだろうとか、ちょっとだけまた話せないかなとか、今日は何を話そうかなとか、恋とかそういうのではなくて、もっと単純に相手に対する興味とか、もっと言うとこう、これまでの距離感を取り戻していくことに対する緊張感みたいなのがひしひしと伝わって来て、中学2年生という微妙に異性を意識してしまう年頃なのも相まって、それがなんかすごいドキドキするのです。

対比が際立たせる2人の違いと共通点

2人の環境の違いというのも、このお話の魅力を最大限に引き出していると思います。

春平の人間関係は保育園の頃からずっと同じままです。同級生は全部で19人、保育園から小学校、中学校に至るまでずっと同じクラスです。学校の周囲の環境はど田舎らしくほぼ何もなくて、よく言えば安定した、悪く言えばまったく変わり映えのない環境です。

一方あんは1学年3クラスもある私立の中学校で、いろいろな小学校から集まって来た生徒で構成されたまったく新しい人間関係です。学校の周りには店も多くて、ど田舎から出て来たあんにとっては刺激の多い環境なのです。

閉じた世界と、新しく広がった世界。まったく違う世界線で生きる2人が、けれど片道40分のバスの中、そのうち半分の道程はほぼほぼ2人きりという状況。同じ速度で揺られて、同じ景色を感じて、同じ立場になる。だからこそ、このバスの中ので交わす会話が、その時間がひときわ特別に尊く感じられるのです。まさしくタイトル通り、「ふたりバス」なんですよね。

バスという閉じられた空間

そしてこのバスというのがまたなんとも言えない味があります。バスってそこそこ広いですけど、ふと思い立ったらすぐに距離を縮められるくらいの空間じゃないですか。普段はお互い少し離れて座ってるんです。定位置が決まってる感じで。でも何か話そうと思って声をかければかけられるくらいの距離で、少し話したいなと思ったら簡単に席を移動できちゃう。乗客が2人しかいないなら尚更です。たまに声をかけて、話すことがある時は席を移動して、でも毎回毎回そうではない。そんな絶妙な2人の距離感を表すのにめちゃくちゃ都合のいい舞台装置何ですよね。

そう、この2人、何も話さないって日も結構あるんです。微妙な距離感にいるのにわざわざ話さないこともある、そんな沈黙の描かれ方っていうのもほんと上手くて、絶妙な気まづさの中で、今日は声をかけれたとか、少し話せたとか、そういう緊張感がとてもいい味出しているのです。

脇役の描かれ方

脇役にもちょっとだけスポットを当てたいと思うんですけど、脇役のキャラもまたとても素敵です。

例えば、春平のクラスメイトでかつてあんの大の仲良しだった牟田るる果。るる果もまたあんが私立中学へ行ってしまったことであんと距離ができてしまった人間の1人ですけど、ちょっとしたきっかけであんとの距離をとり戻します。この距離のとり戻り方がもうとにかく早い。これまで1年間ほとんど連絡も取っていなかったのが、ちょっと再会しただけですぐに昔のように仲良くおしゃべりをするのです。

これ完全に春平との対比だと思うんですよね。春平がなかなか距離を測りかねているところを一瞬で詰めらる。女の子同士だからっていうのが1番大きいと思うんです。小学校の頃すごく仲良かったっていうのもあると思います。でもそんなるる果と比較して、春平はいつまでも昔の距離感を取り戻せずにいる。春平とあんが中学2年生の男女であることを意識せざるを得ないというか、そういう対比をうまく盛り込んでいるなあと感じるのです。

ちなみにこのふたりバス、通常ラブコメなどでは欠かせない悪役とかライバルといったキャラは今のところ全く出てきていません。せいぜいあんのクラスメイトであんのことがちょっといいなあと言っている男子が登場する程度です。徹底的に2人の関係にのみ焦点を当てていると言えます。

悪役やライバルといったキャラというのは、物語に刺激を与える重要なエッセンスですけど、そういったものがほぼ排除されているからこそ、この物語における2人の関係性を安心して見守れる要因とも言えるんですよね。はらはらしたいんじゃない、ゆっくりまったりと2人がかつての距離感を取り戻していく様を、そしてその先にある何かをただただ見ていたい、そんなお話なのです。

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