私が小学4年生の頃に大好きだった児童書、偕成社文庫の『二分間の冒険』を紹介します。
確か当時夏休みで読書感想文を必ず書かなければいけなくて、それを書くにあたって小学校から本の通販の紙を渡されるんですよね。学校でまとめて注文して、夏休み前にわたされるやつです(今もやっているところあるんでしょうかね)。
だいたい全部で30冊くらい紹介されてる(1学年5〜6冊くらい)のですが、正直どれも面白そうじゃないんですよね。コロコロコミックとかコミックボンボンとか読んでミニ四駆なりガンプラなりやってた方がずっと面白かったですから。
その中で唯一目に留まったのが、この二分間の冒険です。単純に他の本は青春ものみたいなものばかりで、どうせ読書感想文を書くならせめて冒険物がいいなということでこの本を選んだのでした。
なにせその読書感想文を書いたのも30年近く昔の話なんでうる覚えもいいところですが(本自体は昔実家が引っ越すときに捨てられてしまいましたので)、なんとなあく、本のあらすじから見どころなど紹介していきます。
二分間の冒険のあらすじ
突如異世界に放り込まれる主人公の悟。“世界で1番確かなもの”を探す旅へ。
主人公は小学校高学年くらいの少年悟。悟はひょんなことから人間の言葉をしゃべる黒猫の「ダレカ」と出会い、異世界へと放り込まれてしまいます。
その異世界は、悟にとってとても不思議な世界でした。文明の進行度はおそらく中世ヨーロッパをイメージした感じでそれはそれで馴染みがありそうなものですが(いわゆるRPGゲームの世界みたいなものですね)、ただそこで出会う人々が皆、悟の学校の友人たちばかり(しかも悟のことは誰も知らない)だったのです。そう、登場人物は皆小学生くらいの子どもで、あとは70歳とか80歳を過ぎたようないかにもよぼよぼな感じの老人ばかりなのです。
さて、悟はそこでダレカにかくれんぼをしようと提案されます。ダレカはその世界で「1番確かなもの」に姿を変えていて、そのダレカを抱きしめて「ダレカ、捕まえた!」と言うことでその世界を脱出できるのだと言うのです。
“1番確かなもの”。これがなかなかにくいです。悟はこの不思議な世界で冒険をしながら、“1番確かなもの”を探り始めます。
クラスメイトの少女だったはずのかおりを見捨てるわけには行かない!
異世界に来てすぐに、悟は竜の生贄に選ばれてしまいます。そしてもう1人の生贄としてのパートナー(生贄は必ず男女1組のペアなんですね)かおりとともに、竜の館を目指すことになります。
竜の生贄とは何か?
その世界では竜が強い力を持っていて、定期的に竜へ生贄として少年少女を差し出す決まりとなっているそうなのです。自分1人なら生贄なんて放っておいてダレカを探せばよかったのですが、クラスで同級生だったかおり(当然かおりは悟のことは知りませんけれど)が生贄として竜の館に行くことを見過ごせないと、一緒に竜の館に向かうのでした。
またその世界では竜が強い力を持っていると聞いて、もしかしたら竜がダレカなのではないか?と密かに期待もしていたと思います。
異世界から来た悟は選ばれた勇者?異世界モノの王道のストーリー展開
途中立ち寄った小屋で、悟たちは老人から竜の生贄の顛末を聞きます。生贄といってもただ殺されに行くわけではなく、知の勝負、力の勝負を求められるのだとか。知の勝負とは、竜となぞなぞ合戦をすることです。お互い1問ずつなぞなぞを出し合い、それで勝負を決めます。ただもしなぞなぞの勝負で敗れたとしても、剣を取って力の勝負を挑み、勝つことができればよし、負けると若さを吸い取られ70〜80くらいの老人になってしまうというのです。
そして小屋の老人に促され、小屋の裏の岩に突き刺さった剣を抜かされますが、それぞまさしく勇者の聖剣、なんと悟とかおりは選ばれし勇者だったことが分かります。たとえなぞなぞの勝負で負けたとしても、この剣ならば竜を覆う分厚い鱗も貫くことができるというのです。
ありがちではありますが、選ばれし勇者になるなんて胸熱な展開ですよね。悟とかおりも意気揚々と竜の館へと向かうのでした。
竜の鱗が固すぎる!!選ばれし勇者の剣が通じない?
竜の館には十数組の少年少女が集まっていました。これから毎日順番に、竜になぞなぞ勝負を挑む少年少女たちです。彼らはなんとなくよそよそしい感じで、悟とかおりも自分たちが選ばれた勇者であるということがバレてしまうと色々と面倒になるということで、あまり他の人たちとは関わらないようにするのです。
そしてとうとう、1組目から順に竜との勝負が始まります。はじめは知の勝負、なぞなぞによって勝負を挑みますが竜には勝てず、次に剣を抜いて力の勝負を挑みます。しかし当然ながら、その剣は竜の鱗を貫くことができず、竜に若さを奪われてしまいます。
悟とかおりはそこで立ち上がります。自分たちの剣が選ばれし勇者の剣であるならば、自分たちの番が来ずともさっさと竜を倒してしまい、これ以上の犠牲を増やさないようにした方がいいと考えたからです。
悟はかおりとともに他の組の人たちの力の勝負に乱入して竜に剣を突き立てます。けれども、なんと剣はあっさりと折れてしまいました。伝説の勇者の剣であったはずなのに…!竜は順番通りに勝負した人たち分の若さだけ吸い取り、呆然とする悟たちを残して去っていってしまうのでした。
竜の館の真実
竜の館にて、悟たちは呆然とするしかありませんでした。なにせ自分たちが持っていた選ばれし勇者の剣が通用しなかったからです。悟たちの竜との勝負の順番はもう少し先になりますが、悟もかおりももはや気力を失っていたと思います。
そこへ、同じく竜の生贄として館に来ていた1組の少年少女が悟たちの部屋を訪れます。彼らは悟たちに、衝撃の事実を伝えます。
なんと彼らもまた、竜の館までの道すがら老人のいる小屋へ立ち寄り、そこで選ばれし勇者の剣を引き抜いたというのです。けれども本当に驚愕したのはその後でした。ふと忘れ物に気づきその小屋に戻った時、なんとその老人が岩に新しい剣をさくっと刺していたというのです。
ここまでくれば分かるかと思いますが、悟もかおりも、もちろんこの衝撃の告白をしてくれた2人も、そしてこの竜の館にいる全員が「選ばれし勇者」だったのです。しかもそれは本当の勇者などではなく、生贄となった少年少女たちに最後まで希望を持たせて竜の館に送るシステムでしかありませんでした。
そんな2人も、翌日の竜との勝負で若さを吸い取られ老人になってしまいます。そこで悟は、ある決断をするのでした。
「君は伝説の勇者なんだろ?」竜の館に集まった伝説の勇者たちに真実を語る時
全員が夕食に集まっている食堂で、悟は全員にみんなで話し合うことを提案します。「そんなのお前らだけでやればいいよ」などと吐き捨てて食堂を出ようとする少年に、悟はこう言うのです。
「君は伝説の勇者なんだろ?」
「そしてその腰に提げた剣こそ伝説の勇者の剣なんだ」
言われた少年だけではなく、それを聞いていた周りの少年少女たちも一様に皆怪訝な顔をします。当然でしょう。皆がそれぞれ、自分自身が唯一の伝説の勇者だと信じているのですから。
真実を話し、愕然とする少年少女たち。けれども次第に皆納得して、どうやったら竜を倒すことができるか?といった話し合いにシフトしていきます。固い鱗にはどうやったところで剣は通りません。勝つなら、力の勝負ではなく知の勝負、なぞなぞで出し抜くしかありません。いつの間にか皆が意見を出し合い、協力して竜を倒すことを誓うのでした。
二分間の冒険の見どころ
竜の館の秘密に至る構成が絶妙!
子どもたちはある一定の年齢に達すると竜の生贄になるために集落を離れ、竜の館に向かいます。ずっと昔から続く、その異世界のルールでした。それだけ聞けばただ単にそういう設定かと思うところですが、実は世界がそのようになったのには、過去にそれに至る歴史的背景がありました。はじめは訳もわからず、(例え自分の知っている子とは違うと分かっていても)クラスメイトの女の子を1人生贄にさせるわけにはいかないと、一緒に竜の館へ向かう冒険譚なだけですが、後にその世界の秘密が明かされていくにつれその設定に深みが出てくるのです。
過去に歴史的な背景があって作られた仕組みがもはや形骸化し、新しい世代にとってはただただ理不尽な押し付けでしかない、そんな背景。何となくですが、現代社会に問題点にも通じるものがあると思いませんか?
理不尽な存在である竜に対して力を合わせて戦うという構図
なにぶんうろ覚えなもので、細かいところは自信がありませんが、概ねあらすじとしてはこんなところだったかと思います。けれども何でも知っているとされる竜に対して、何十人いるとしても所詮は10歳程度の少年少女たちがどうやって竜を打ち負かすのか、子ども心にドキドキして手に汗を握っていたことを思い出します。
どうやったって、普通のやり方では竜を倒すことはできないんですよね。少なくとも正攻法では無理なんです。そういう存在なんですから。けれども、そこに集まった少年少女たちはまさに「集団」である強みを活かした戦い方をします。全員が心を1つにして理不尽な敵に立ち向かっていくのです。
実はこの「理不尽な敵に対して、個ではなく集団で追い詰めて戦う」と言う構図は、多くの示唆に富んでいるように感じます。
社会は理不尽です。学校の意味のない、嫌がらせとしか思えないルール(特に中学校以降に多く見られますよね)。先生を含めた大人の、子どもに対する対応。もっと先を見れば、社会にはあり得ないと思われるおかしいルールや慣習がこれでもかというほどに蔓延しています。それは大人になればなるほど痛感するのではないでしょうか。
そこに対して「おかしい」と、どれだけ声を上げられるでしょうか。周囲に助けを求め、協力を取り付け、それに対して話し合うことが果たしてどれだけできるでしょうか。小学校6年生というまさに大人と子どもの間にいる彼らにとってその意味は非常に大きいと思いますし、そんな気づきを与えてくれる物語だと私は思っています。
この世界で1番確かなものとは?
“この世界で1番確かなもの”になっているという不思議な黒猫のダレカ。これを捕まえないことにはこの異世界から脱出することはできません。はじめ、悟は竜が世界で1番確かなものだと思うんですよね、確か。けれども竜は全然“確かなもの”ではありませんでした。
では“この世界で1番確かなもの”とはなんなのか?
それは自分です。
悟にとって、自分自身こそが“この世界で1番確かなもの”だったのです。
例えば悟はこの異世界に来ていきなり竜の生贄になることが決まりますが、悟にはそれを拒否することもできたはずです。けれどもかおりを1人で行かせるわけにはいかない、竜がこの世界で1番確かなものかもしれない、そう考えて悟は竜の館へ行くことを“自分の意思”で決めます。
また竜の館では、竜との勝負の時を待たずして竜に戦いを挑むことを自分の意志で決めますし、生贄である全員に竜の館の秘密をバラしてともに戦うことを呼びかけたのも悟自身です。
確かに、そもそもこの異世界は悟自身のために作られた世界でした。だからこそ登場人物が皆悟の知人だったわけで、その異世界限定で、確かなものが悟自身という考えも分からなくはないですし、一説としてそれは正しいでしょう。ただ例え現実世界であっても、自分の行く末を決めるのは自分自身ですし、思想も感情も本当に確かなものは自分にしか分からないのです。
伝説の勇者ではなかった悟。
誰でもそうですが、自分は決して世界で特別な存在ではありません。けれども、世界で1番確かなものであることに違いはないのです。
この本がそもそも小学校高学年向けということで、まさにこれから大人と子どもの狭間を揺れ動きながら芽生える自我の形成に一役買ってくれる1冊なのではないかと思うのです。
知る人ぞ知る子ども向け大冒険の物語!二分間の冒険【読書感想文におすすめ児童書】のまとめ
いかがでしたでしょうか。小学4年生の頃読書感想文を書くがために何となく選んだ本について、まさか20年以上経った今になって改めて感想を書くなんて夢にも思っていませんでした。これはこれで、なんとも不思議な感じです。一時期だいぶハマって何度も読み返していたのですが、さすがに昔のことなので詳細をしっかりと覚えているわけでもなく、もしかしたらセリフや場面の解説にちょっと変なところもあるかもしれません。ただ概ね、こんな物語です。
見所として色々と述べさせてはいただきましたが、別に単なる冒険譚としても十分楽しめますし、ドキドキして手に汗握ること請け合いです。うちも長男がもう少し大きくなったら、もう1回購入して、読ませてみようかな。そうしてお互い感想など言い合えたらいいな、なんて思っている今日この頃です。
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